【恭加の「 THEATRE for ALL 」感想文】32 「部屋に流れる時間の旅」

2022年8月22日

舞台上の3人。椅子に座り机に向かう女性、女性のほうを向く男性。舞台右側から二人を見つめる女性

こんにちは。恭加 (きょうか) です。

恭加がご紹介する、バリアフリー オンライン劇場THEATRE for ALLの作品。

今回は「部屋に流れる時間の旅」をご紹介します。

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この作品は2011年に起きた震災の直後に亡くなった女性とその夫、

夫の新しい恋人の3人を描いた演劇作品である。


2011年に起きた震災の後、どん底を経験したからもう良い方向にしか行かないと、これからのことに心を躍らせていた女性。

その女性は震災直後に喘息が原因で亡くなった。

夫はこんなにいい気持ちで亡くなった彼女は幸せだという。

そんな未来に希望を抱きながら死んだ女性の霊と、

妻を失い新しい女性に惹かれている自分は今の自分の弱さからくる感情だから自制しなければだめ、と気持ちにブレーキをかける男性、

そして男性に対して弱さを見せてほしい、自分に頼ってほしいと思う新しい恋人の話である。


女性の霊はずっと「覚えているでしょ?」と繰り返し夫に問いかけていた。

不気味なほど明るい女性の霊の声が響き渡っていて、奇妙な怖さを感じられた。

まるで未練があるかのように、彼女は自分が既に亡くなっている事をわかってないのかと感じる程。

だが、妻の声は夫の心であり、次に進みたいと思いながらも妻を忘れることの怖さと罪悪感の葛藤、

さまよい続けている夫の感情を椅子から浮いた足が語っているのかと思った。

夫は妻と共に過ごした部屋を何一つ変えることなく暮らしていた。

だが、壁紙や机等まだ悪くなっていないものを全て変えたいと言っていた。

夫はまだ妻のことを愛していてずっと妻にしがみついているのを変えたいと思っていることを表しているセリフだと感じた。


この作品は言葉の選び方が独特だった。

そして観ている人を物語の世界に引き込むためか、初めに目を閉じてもらう。

幽霊になった女性と夫の話は時々嚙み合っておらずわからない部分も多々あったが、

この作品の伝えたいことは、人はどんな絶望に立たされているときでも希望を見つけて生きていくべきという事だと感じた。


妻の幽霊が言っていた「覚えている?」という問いかけには、

震災直後に考えていたことを今の日常では忘れていたことに気づかされる。

妻の問いかけが震災に関連しているものにも聞こえてきた。

私たちは過去を置いていきどんどん先に進んでいく。良くも悪くも変わってしまう。

主人公はパートナーを失った自分が変わっていくことに対する葛藤が描かれていた。

亡くなった人はもう戻ってこない。

大切な人が亡くなっても生きている人の時間は止まらないから、思い出すことが大事なんだと思う。


この作品は英語字幕のみである。

海外の方にも見てもらえる作品であるが、聴覚障害者は英語を理解できないと作品を楽しむことができないと思った。

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