【恭加の「 THEATRE for ALL 」感想文】39 「美談殺人 タカハ劇団」

2022年12月12日

美談殺人トップ画像。「手話通訳者が演者に挑んだ作品」の文字。手話で話している男女

こんにちは。恭加 (きょうか) です。

恭加がご紹介する、バリアフリー オンライン劇場THEATRE for ALLの作品。

第39回は美談殺人    タカハ劇団をご紹介します。

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この作品は、人類の平均余命が50年に低下した未来について描いた舞台である。

人々は何者でもないまま生まれて死に、一体何のために生まれてきたのか生きる意味が見つからないまま死にゆくのを恐れ、死に様に「美談」を求めるようになった。

依頼主が求める美談を作る美談作家が人気者になり、売れっ子美談作家は膨大な財産を築いた。

歌舞伎町の浮浪者の一人の男性が大御所美談作家と出会い、

「この世で一番くだらない美談を書いてほしい」と依頼され、浮浪者から次第に売れっ子美談作家となる。

だが、この二人の出会いが取返しのつかない美談を作り出してしまう。


社会問題について問題提起している作品ではあるが、コメディ要素もあり、ユーモアのセンスがある素晴らしい作品だった。

社会問題について扱う作品は良くも悪くも重くなりがちであるが、

コメディ要素があるので観ていて笑えるところもあり、だけど考えさせられる作品でもあった。

物語が終盤にいくにつれて、人間の止められない欲求、人間の変わりゆく様、その恐ろしさを描いていて怖かった。

人々が承認欲求を求める世界で、その欲望を与える美談作家が無意味な死を求める。

相反するからこそ響くものがあった。


この作品では登場人物一人ひとりの取る選択で世の中が変わってしまう。

世の中が良くない方向に向かうと、政治家などの権力者が批判されるが、本当にそうなのだろうか。

考えさせられる作品だった。


そして、役柄一人ひとりにしっかりと色があって、感情を大きく表現する部分もナチュラルで、全ての役者さんの演技のクオリティがとても高いと思った。

5人の役者さんで配役を回していて、一人ひとりの表現のふり幅がとても広かった。


この作品は、声を失った主人公の妹役がずっと手話で会話をしている。

役としてだけでなく舞台通訳者として出演者のセリフも通訳をする。

固定された場所で手話をするのではなく、話している人のそばにいき、手話をする。

ただ手話をするのではなくすべての手話に感情が入っていて、そこにいても違和感がなく物語の一部として溶け込んでいた。

手話通訳者と役者さんの位置が離れていると、手話を観ながら役者さんの表情を見るのは難しいが、

話している俳優さんのそばに行くことで舞台を楽しみやすくなるのではないかと思った。

そして音声ガイドや日本語字幕でも観ることができて、とてもアクセシビリティに配慮された作品だと思った。


江戸時代の寿命が50歳だった人間が今では人生100年と言われる中、私たちはただ生きながらえている以上の意味を見いだせているのか考えさせられる作品だった。


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