【恭加の「 THEATRE for ALL 」感想文】42「おにい ~筋ジスになって絶望はないの?機能不全家族の妹が問う~」
この作品は大学生の妹が筋ジストロフィーである兄を取材した、命についてのドキュメンタリー映像だ。
筋ジストロフィーとは、筋力低下をみる進行性の遺伝子疾患である。筋肉組織が委縮し、機能が失われていく病だ。
日本の患者数は約25400人であり、2015年より指定難病となった。現代の医学ではまだ治療法が見つかっていない。
兄(おにい)は高校で体操部へ入部し、いくら筋トレをしても筋肉がつかず、不審に思った先生が病院に行くことを勧め、そこで筋ジストロフィーだと知る。
ゆっくりと進行する症状に本人や周りも気づかず、発症したのは小学生の頃だったことを高校生になって知った。
だが、自分が筋ジストロフィーだと知っても兄は「普通」に暮らしている。
普通に生きようとする反動で体は衰え、痛みは増していくが、兄は強く生きていた。
取材から9年たった今も家族から離れ、一人暮らしで充実した生活を過ごしている。
兄妹だからこそ「自殺しようと思ったことはないの?」「絶望することはないの?」など、
鋭い質問をする場面があった。
兄は生きづらさや辛さを嘆くことはあったが、生きることについて前向きな回答ばかりだった。
「俺は生きるよ」
「俺は生きたい」
「僕行きたいんです死にたくないです」
何度も「生きたい」という言葉を発していた兄は、生きることに前向きで、自分の悩みなんてちっぽけだなと感じるくらい兄は明るくて強い人だった。
自分や大切な家族が難病にかかった時、私なら「なんで私が」と思ってしまうと思うし、
不安に押しつぶされそうになり弱音をたくさん吐くと思う。
でも兄は
「いつか誰でも病気をするし、大きな病気をするかもしれないし、迷惑もいろんな人にかけるし、
『なんで自分だけ』ではなく、誰しもが経験するようなことを俺がちょっと早く経験したというそれだけの差だと思う」
と語っていたのをみて、どこまでもまっすぐな兄に感動した。一番印象に残るシーンだった。
兄は見た目は障害者ではなく普通の人に見えることに悩んでいた。
仕事をするとどうしても他の人と同じように働くことが肉体的に厳しい。
だが、
「病気を理解していくれるような仕事は基本的に無いから、その環境に自分が適用しなければならない。」
と話していた。
色が薄く気づかないだけで、私たち一人ひとりにも何かしらの障害があると私は思っている。
その色が濃いのか薄いのかによって「障害者」と「健常者」に分けられているだけであって、
兄も私も同じ人間である。この作品を通して、そんなことを感じた。
この作品は、日本語字幕、英語字幕に対応していてアクセシビリティに配慮された作品である。