日曜劇場『ラストマンー全盲の捜査官ー』EPISODE 1 感想会
こんにちは。サニーバンクでウェブアクセシビリティ診断などをさせてもらっている、サニーバンクのワーカー(会員)で視覚障害(弱視)のライター・榎戸(えのきど)です。
4月23日(日)からTBSテレビにて連続ドラマ『ラストマン―全盲の捜査官―』がスタートしました。 全盲のFBI捜査官を福山雅治さんが、バディをくむ刑事を大泉洋さんが演じる豪華キャストということもあり、第1話の関東地区の平均世帯視聴率が14.7%(ビデオリサーチ調べ)になるなど話題になっています。
主人公が全盲の捜査官ということで、今回「サニーバンク」では、視覚障害のあるワーカーさんに集まってもらい、ドラマに対する感想をホンネで語ってもらいました。
第1弾の記事となる今回は、ドラマの第1話をふりかえり、
- 「視覚障害者の嗅覚や聴覚が鋭い」は本当か?
- 作中の「全盲の演技」、ズバリどうだった?
- ドラマの設定やセリフ、正直どう思った?
などを話してもらいました。
【今回集まったワーカーさん】
- やまちゃん・・・中途失明の全盲
- Funky Kei(Kei)・・・中途失明の全盲
- ふすま・・・中途弱視
- ゆう・・・先天性の弱視
- 鈴木・・・先天性の弱視
- 榎戸・・・中途弱視(この記事の執筆を担当しました!)
【サニーバンクスタッフ】
- 伊敷・・・サニーバンクのアクセシビリティアドバイザー。先天性の弱視だったが、3年ほど前に全盲となる。アクセシビリティのコンサルタントなどを行う。
- よっこ・・・事務局スタッフ。サニーバンクのアクセシビリティに関する案件を主に担当し、障害当事者ワーカーさんと日々一緒に仕事をしている。健常者だが、最近老眼が出てきた(本人談)
「視覚障害者の嗅覚や聴覚が鋭い」は本当か?
―― まず最初に、感覚の話題から。
福山雅治さん演じる全盲のFBI捜査官・皆実広⾒(みなみひろみ)は、視覚以外の感覚が優れ、火薬の匂いをかいで犯人を探したり、4倍速の音声を聞いたりするという演出がありました。実際の視覚障害者はどうなのでしょうか?
ゆう:嗅覚(きゅうかく)はみんな使っているのかな?と思いました。僕はあんまり使っていない気がします・・・
ふすま:街中では使いますよね。ファーストフードを探す手がかりにしたり
伊敷:僕もセブン-イレブンやローソンやファミリーマートの違いとか、匂いでかぎ分けてますね
Kei:香水で区別できる人もいますよね
伊敷:香水は、結構わかりますね。ただドラマで、皆実広⾒がシャンプーの香りで、黙っている護道⼼太朗(ごどうしんたろう)に声をかけるシーンがあったけど、あれは僕にはわからないなぁ(笑)
よっこ:そういえば、視覚障害者なら音声を4倍速にしても聴けるっていうシーンもありましたね
Kei:2倍速はいけると思うけど、4倍速は厳しいと思うぞ(笑)
ふすま:私もドラマで流れている音を聞き取れなかったですね
鈴木:私は弱視なんですけど、匂いとか音とか敏感じゃないですね。全部「弱」で。もし今以上に見えにくくなったら、ちゃんとわかるようになるんだろうか・・・
伊敷:僕は全盲になって3年ぐらいになるんです。最初は全然わからなかったんですけど、停まっている車を感覚で「あ!いるな!」って、わかることが増えてきました。それと、道路の端の方が水はけを良くするために真ん中より低くなっていたりしますけど、その傾きがわかるようになってきましたね
よっこ:伊敷さんの、その話を聞くと、感覚が研ぎ澄まされていく感じなのかなと思いますね
ふすま:必要性ですよね。やらなきゃどうにもならないからと思ってやっているうちに、いつの間にかなんとかなってるっていう。徐々にやっていくと、適用できるっていうのが意外にあるんじゃないですかね
―― 超人の皆実と同じことができるかはさておき、見えないことで徐々に他の感覚が研ぎ澄まされる(トレーニングされる)というのはあるのではないかというのが多くの意見でした。
作中の「全盲の演技」、ズバリどうだった?
―― 次に「全盲の演技」について語ってもらいました。
参加したワーカーさんの多くが共感したのは、福山雅治さん演じる皆実広⾒が、大泉洋さん演じる刑事・護道⼼太朗に手引きをしてもらうシーン。向かい合って後ずさりしながら手を引こうとする護道に対して、皆実は横に並んで皆実が肘をつかむ形に変えてもらいました。
鈴木:こういう人いるいる!て思って、楽しかったです!!(笑)
やまちゃん:あるあるですよね!一生懸命「(あなたは)前見てください!前見てください!」って
鈴木:誘導してもらえるのはありがたいんですけど、後ずさりをされると怖いんですよね。あと、後ろから押してもらうこともあるんですけど、それも怖い
伊敷:誘導する時は進行方向を向いていつもどおり歩いてもらって構わなくて、僕が肩か肘を掴ませてもらえると助かります
―― また演技については、SNSなどで「福山さんの目線が合ってるけど、視覚障害者だと難しいでしょ!」という反応や、「全盲の人は、あんなにまっすぐ歩けない!」という声、「そばを、あんなにきれいに食べられないよ~」という声もありましたが、みなさんはどのように感じたのでしょうか?
よっこ:でも、人によっていろいろですよね。目が合わない人もいれば、『いま目が合ってるんですけど、見えてるんですか?』みたいな人もいるし。だから、「目が合う感じだから、演技が下手」というのではないと思うんですよね
やまちゃん:目が合うかは、いつ見えなくなったかにもよりますしね。視覚障害者にもバリエーションがあるってことをどれだけ知って、SNSで批判を書いたか、ちょっと疑問ですね
よっこ:そうそう!それ私もすごい思う!
鈴木:基準が、「自分が知ってる人」だけになってますよね
よっこ:少し例えがずれるかもしれないんですけど、私福岡にいるから、福岡訛りの演技を見た時、「あのイントネーションはヘンだ」とかって一瞬思うことがあるんです。だけど、私が知ってるイントネーションと違うだけで、ちょっと離れた地域ではそのイントネーションが使われてたりする場合もあるんですよね
そういう自分の知らないタイプの人もいるってことは、頭に置かなくちゃいけないんじゃないかなって思いますね
やまちゃん:視覚障害者にも多様性があるんですよね
伊敷:視覚障害者にも多様性があるということは広く社会に知ってほしいというのもあるけど、僕たち視覚障害者自身も忘れちゃいけないことだと思いますね
―― SNSでは演技についての批判も見受けられましたが、視覚障害者もさまざまです。目が合うように見える人、ある程度まっすぐ歩ける人、きれいに食事ができる人などもいます。そのため、演技が下手なわけではないというのが、ワーカーさんや障害当事者と関わりの多いスタッフの意見でした。
ドラマの設定や、福山さんのセリフ、正直どう思った?
―― 最後に、ドラマの設定やセリフについて話してもらいました。
鈴木:皆実が捜査官に抜擢されたのがアメリカという設定が好きですね
やまちゃん:アメリカでは、(障害のある人に)捜査官の試験を受けてもらうためにどうすれば良いかと考えるような・・・障害があってもチャレンジすることを認めてくれる社会ですよね。
鈴木:そう!そしてそれを周りが応援するようなね
―― ドラマの中盤で、周りに理解されない皆実が足手まといの人間が周囲に余計な負担をかけている事は分かっています。ただ私は社会のために自分の力を使いたい。昔と比べればテクノロジーの力によって多少は自由に動けるようになりました。あとは…周りの人たちが一緒に働こうと思ってくれるかどうか、それだけなんです
と語るシーンがありました。
やまちゃん:あのセリフは、私たちが言いにくいことを福山さんが言ってくれたよ!って思いましたね
鈴木:あ!あのセリフね!!
ふすま:今までのドラマだと「障害者だって頑張れば報われる」みたいな聞こえの良いことだけを言うことが多かったですけど、今回の場合は「大変だけど、やれることはあるよ」みたいな、現実的なメッセージで良いですよね
やまちゃん:それと私、健常者がこのドラマの言葉を文字にするってすごく大変だったと思う。脚本の黒岩勉さんも葛藤しながら書いたんじゃないかなって。それを福山さんというスターの口で言ってくれたってことは、我々としては本当にありがたいことですね
伊敷:福山さんなら、ちゃんと皆実広⾒の言葉として言ってくれるっていう信頼感があったから、あの脚本が書けたのかなって思いますよね
―― その脚本家・黒岩勉さんがドラマに寄せたメッセージがあります。
やまちゃん:私、このドラマを観て本当に勇気づけられました。『ちゃんと仕事をしたい』っていう願いを障害者も持っていることを、自分ももうちょっと表現しても良いのかなって。そういう勇気をもらいましたね
――『ちゃんと仕事をしたい』という願いを、表現して良いかも――
多くの視聴者の心に響いたドラマは、当事者の心にも響いていました。
次回以降も、どのような展開になっていくのか、楽しみですね!
また、今回のコラムに書ききれなかったこと(視覚障害者が利用するツールいろいろ、クロックポジションってどう?、エコーロケーション、解説音声のことなどなど)についても、次回以降にお伝えできればと思います!