日曜劇場『ラストマンー全盲の捜査官ー』感想会 第2回
こんにちは。サニーバンクでウェブアクセシビリティ診断などをさせてもらっている、サニーバンクのワーカー(会員)で視覚障害(弱視)のライター・榎戸(えのきど)です。
TBSテレビの連続ドラマ『ラストマン―全盲の捜査官―』で福山雅治さんが全盲のFBI捜査官を演じ、話題になっています。
そこで実際に視覚障害のあるワーカーさん(サニーバンクの会員さん)に集まってもらい、ドラマについてホンネで感想を語り合うことに!
今回は、その企画の第2弾。
SNSでも反響が大きかった3つのテーマについて、真相を語ってもらいました。
- 全盲で銃は無理・・・と思ったら!?ラストマンのアクションシーン、徹底検証!
- ドラマのアイテム、どこまでリアル?顔識別「アイカメラ」は?時計型麻酔銃に激似と噂のアレは?
- 住宅の問題も発見!?皆実広⾒の指パッチン、当事者はどれぐらい使っているのか?
というテーマでお送りします。
ぜひご覧ください!
【今回集まったワーカーさん】
- やまちゃん・・・中途失明の全盲
- Funky Kei(Kei)・・・中途失明の全盲
- ふすま・・・中途弱視
- ゆう・・・先天性の弱視
- 鈴木・・・先天性の弱視
- 榎戸・・・中途弱視(この記事の執筆を担当しました!)
【サニーバンクスタッフ】
- 伊敷・・・サニーバンクのアクセシビリティアドバイザー。先天性の弱視だったが、3年ほど前に全盲となる。アクセシビリティのコンサルタントなどを行う。
- 板垣・・・サニーバンクのアクセシビリティアドバイザー。電動車いすを使用する身体障害当事者。ウェブアクセシビリティ診断・ユーザ評価などを行う「NPO法人アイ・コラボレーション神戸」の理事長。
- よっこ・・・事務局スタッフ。サニーバンクのアクセシビリティに関する案件を主に担当し、障害当事者ワーカーさんと日々一緒に仕事をしている。
全盲で銃は無理・・・と思ったら!?ラストマンのアクションシーン、徹底検証!
―― 『ラストマン』では、福山雅治さん演じる全盲のFBI捜査官・皆実広⾒(みなみ ひろみ)のアクションシーンもあります。
あれは、どこまでリアルなのでしょうか?
ゆう:僕、高校の授業で柔道をやったことはありました。相手が健常者でも、組めば勝ってましたv
よっこ:ゆうさんかっこいい!強いんですね
板垣:殴るのは?狙い定まるのかなって
Kei:できるできる
板垣:・・・まじっすか!?
Kei:全盲同士でケンカして、殴り合ったりもするし。人がいると前が開けていない、障害物がある感じが聞こえるんです
―― これは個人差があるようです。
ただ言えるのは、やはり『ラストマン』のように全盲でも相手を殴るのは十分可能だということでしょう。
榎戸:2話で銃を撃つシーンもありました。射撃はさすがに無理ですよね!?
ふすま:私、射撃やってるんですけど・・・
榎戸:え!射撃やってるんですか!?
ふすま:でもちょっと手元がずれただけで結構外れますから、正確に狙うのは難しいとは思います
よっこ:ちなみに皆実さんは、白杖を立てて、左手でグリップを握って固定して、その左手の手首あたりに銃を持った右手をのせて、撃ってますね
伊敷:照準があったときに、心太朗が「シュート」と言って、それに合わせて皆実が撃ってたのがかっこよかったですね
ふすま:あ~それだったら結構当たるかもしれないです
―― 衝撃の回答。さらに・・・
鈴木:私、ドラマを見ながら銃社会のアメリカでは視覚障害者はどうしてるんだろうって思ったんですよね・・・
板垣:あくまでネット情報ですけど、『一部の州では視覚障害者が銃を所持したり、撃ち方を教えてもらうこともある』だそうです
ふすま:わたしがやっている射撃の場合は、皆実のように人の目は借りなくて、銃口が中心に向いていれば最高音が、そこから離れるに従って音が低く発せられる、という装置を用いて、自力で中心点を狙います。ちなみに、視覚障害者の射撃競技もあって、国際大会もあります。10m先の標的をライフル(空気銃)などで撃つ競技です。国内では視覚障害者の空気銃所持は認められていないので、ビームライフル(高精度の光線銃)を使用しています
―― 意外や意外、世界を見渡せば射撃をしている視覚障害者が結構いるのかもしれません。
ただ、みなさんからこのような補足も。
ふすま:アクションシーン、可能なことも多いと思うんですけど、あれが標準な視覚障害者だと思われたら、ちょっと困ります (笑)。皆実さんはすごい訓練をしている人なので
伊敷:まあ、FBIのトップ捜査官だからね
Kei:ただ、不可能じゃない範囲で描いているのが、このドラマのうまいところですよね
ドラマのアイテム、どこまでリアル?顔識別「アイカメラ」は?時計型麻酔銃に激似と噂のアレは?
―― 『ラストマン』で福山雅治さん演じる皆実広⾒が使うアイテムが、SNSで話題になっています。
とくに反響が大きかったのが、人の顔を識別して、誰かを教えてくれる『アイカメラ』。
本当にあるのでしょうか?
伊敷:あそこまで正確には難しいかもしれないですけど、同じような機器があります。人の顔をAIが識別して、登録した人であれば名前を教えてくれる
Kei:別の製品で、(ドラマに登場したような)自分が見ている風景を他の人に映像で送れるグラスもありますね
鈴木:顔を識別して教えてくれる機能ほしいです!私、「自分から人にあいさつをすること」ができたらいいなと思うんです。見えない、見えにくいと、そこに人がいるのはわかってもそれが誰なのかまではわからないことが多くて、だから自分から「〇〇さん」って声をかけることが難しい。アイカメラがあれば今そこに誰がいるのかわかるから、自分から「〇〇さん、こんにちは!」とか声をかけることができるようになります。そしたら、もっといろんな人と簡単に仲良くなれるのかなって
―― あと少し精度が上がればアイカメラのようなものができ、このような望みも叶うかもしれませんね。
また皆実の、あのアイテムについても豆知識が。
Kei:白杖ですけど、アメリカなどでは耳ぐらいの高さのものを使ってます
ふすま:私は作った時に、「だいたい脇の下ぐらいのサイズが良い」って言われました
Kei:そう、それは日本のやつ。しかも折りたたみでしょ
ふすま:そうですそうです
Kei:折りたたみは海外では珍しいんじゃないかな
よっこ:皆実さんの白杖はみぞおちぐらいの高さなので日本のサイズですかね。皆実さんは日本サイズの折りたたみ白杖をアメリカで手に入れたのかな?だとしたら大変だったかもですね (笑)
―― また皆実がつけていた腕時計、ふたがパカッと開き、SNSの一部で某探偵アニメの「時計型麻酔銃では?」と話題になっていました。
伊敷:あれは触読式腕時計といって、直接針を触って時間を知ることができる時計です
Kei:今は音声で時間を教えてくれる時計もあるんですけど、音が鳴るのが気になる会議などでは便利ですね
よっこ:あの時計、カッコよかったー!同じやつ欲しいです!!でも、私、触ってわかるか自信ないです。直接針を触って、ずれちゃったりしないんですか?
伊敷:真上から触る練習をすると、針をずらさずに時間を読むことができるようになります
―― アイテムも存在するものが多いようです。
住宅の問題も発見!?皆実広⾒の指パッチン、当事者はどれぐらい使っているのか?
―― 『ラストマン』で福山雅治さん演じる皆実広⾒が、周りの物を認識するために使う「指パッチン」。視覚障害当事者は実際にどれぐらい使っているのでしょうか?
Kei:指を鳴らしたり手を叩いたりなどの音の反響で空間をたしかめることを『エコーロケーション』と言うんです。じつは日本の視覚障害者はあまり使わず、アメリカなどではよく使いますね
ふすま:私も使わないです
伊敷:僕も
ふすま:ただ第1話のように高いマンションを探すのとか、第2話のような部屋の広さとかは、音の反響とかでわかる気がします
鈴木:友だちは「白杖の音の響きで周りの様子がわかる」って言ってました
やまちゃん:天井の高さも、圧迫感みたいなものでだいたいわかりますよね。最近の建物って天井高いから、「これは天井高いから新しそうだな」とか「これは天井低いから古い建物かな?」とかも予測してます
榎戸:圧迫感?
伊敷:天井が低いと、音の波がすぐに反射して戻ってきますよね
Kei:無音に感じるところでも、何デシベルかの音があるので、それを感じているのだと思いますよ
―― 皆実の指パッチン、日本では使っていない方が多いようですが、音の反響で周囲を観察するのは同じようです。
そしてなんと、音の反響で住宅事情がわかる人も・・・
Kei:私、物件を見る時にエコーロケーションを使ってます。
目で見るときれいでも、コンクリートへ直にクロスを貼っただけの壁、ちゃんとコンクリートにボードや断熱材などを貼って、その上からクロスを貼った壁があります。それが手を叩くと、音の響きで一発でわかっちゃう。内見の時にそれをやって、不動産屋さんに嫌われたことがありました(笑)
榎戸:どんな音の違いがあるんですか?
Kei:「パ~~~ッン!!」って反響音が長いのはコンクリートへ直にクロスを貼っただけの壁で、「パン!」って反響が短く止まったらちゃんとしていますね。あとは外の音が聞こえてくるかどうかで、壁の薄さとかもわかりますしね
―― ここまでくると、もはや「皆実越え」ですね。
感想会後、健常者のよっこさんが私に語ってくれたことがあります。
よっこ:私エコーロケーションの話を聞くと、小学生のころ、井戸に石を落として、水面に落ちるまでの時間や水の跳ねる音を聞いて井戸の深さを想像したり、古いアーケードでは足音の反響がなんだか変で、恐ろしいけど面白くてたしかめに行ったりしたことを思い出すんです
―― 視覚障害者が音の反響を使っている姿を見ると、特殊な能力のように思えます。
ただ実際は、「幼少期の遊びを極めた」ようなものなのかもしれません。
よっこ:私たちのように目で見ている人は視覚に大きく依存していて、気付いていない、意識していない感覚ってたくさんあると思うんですよね。
サニーバンクのワーカーさんたちと話したり、関わっていると、それに気づかせてもらうことが多くあって。私はそれが好きなんです
―― 今まで意識していなかった世界に気付く。それは豊かな体験だと思います。
このドラマを見ること、障害当事者と実際に関わることで、その世界に気付くひとつのきっかけになるのかもしれません。
次回以降の『ラストマン』、そのような部分にも注目してみてはいかがでしょうか?