【ウェブアクセシビリティ座談会 No.4】ウェブアクセシビリティってどうやってやるの?

2021年4月8日

ウェブアクセシビリティってなに?うん、うん?うん!と聞いているだけでウェブアクセシビリティがわかる座談会第4回
くらげ
サニーバンクのくらげです。聴覚障害と ADHD の当事者です。この連載はアクセシビリティとはなにかをお話しながら理解を深めていこうという企画です。前回に引き続き、4人でアクセシビリティについて話し合っていきたいと思いますので、どうぞよろしくお願いいたします。まず、自己紹介からいいでしょうか?
よっこ
サニーバンクのアクセシビリティ担当のよっこです。前職では自治体広報担当課でウェブアクセシビリティ向上に取り組んでいました。「みんなで一緒に楽しみたい!」がアクセシビリティのメインテーマです。
伊敷
伊敷政英(いしきまさひで)です。先天性の視覚障害でロービジョンと全盲の間を行ったり来たりしています。サニーバンクでは、主にアクセシビリティ関連のアドバイザーをしています。趣味は音楽で、T-SQUARE、小島麻由美、上原ひろみ、X JAPANなどのファンです。最近ハマっているのはsnack time(スナックタイム)竹内アンナ吉澤嘉代子です。
寺島
漫画家の寺島です。発達障害のある2人の子どものママで自身も強いASD傾向があります。このコラムではイラストやアイコンも担当しています。普段はWeb制作会社でパートをしているので、この中では唯一の制作側という事になりますね。よろしくお願いします。

アクセシブルなサイトはシンプルでダサい?

伊敷
前回は「ウェブアクセシビリティは誰がやるのか」という中で、特に行政の中の方々にとってはすべての人が意識して取り組む必要があるということを説明させていただきました。また、民間企業についてももっと普通にウェブアクセシビリティに取り組んでほしい、ということも話しましたね。今回はもう一個の大きなテーマである「ウェブアクセシビリティはどうやるのか」ということをお話できればと思います。
よっこ
よろしくおねがいします!前回の座談会で「ウェブアクセシビリティに関する誤解や疑問」をきっかけに話をスタートしましたが、「ウェブアクセシビリティとデザインに関する誤解」ってありますか?
伊敷
ウェブアクセシビリティについて話すと、「ウェブサイトがシンプルでダサくなってしまうのではないか」という根深い誤解が強いことを感じます。
寺島
シンプルでダサくなるとは?どういう考えから出てきたんでしょうか?
伊敷
これは2つくらいの話が含まれているので分けたいと思うんですが…。1つ目は「アクセシブルなサイトにするためには画像や動画を使ってはいけないんじゃないか。すべてテキストだけで作らなくてはいけないんじゃないか」という誤解ですね。もう一つは「ウェブの技術は日々進歩しているのに最新の技術やデザインは使えないんじゃないか」という誤解です。
くらげ
素人の私としては、どっちも「誤解」とは感じなかったりしますね。特に「シンプルなサイト」というのはアクセシブルなサイトの基本だと思っていました。
伊敷
その「シンプルでなければならない」という部分は本当に大きな誤解なので、ぜひここで解いておきたいですね。まず、「アクセシブルなサイトは画像や動画を使ってはいけないのではないか」についていうと、これは全盲の人にターゲットを合わせすぎていると思います。ウェブサイトを使うのは全盲の人だけではなく、当然、弱視やその他の障害のある人もいますよね。弱視や他の障害のある人にとっては、画像や動画を使って説明されている方が理解しやすいかもしれません。シンプルなサイトはアクセシブルにしやすいかもしれませんが、画像や動画を使ったサイトでもアクセシブルにすることは十分可能です。

スクリーンリーダー専用のサイトは必要?

よっこ
自治体にいた頃に全盲のスクリーンリーダーユーザーの方を職員研修にお招きして、どのようにウェブを利用しているか見せてもらったことがありました。スクリーンリーダーでウェブを利用するのを初めて見た時、私たちがここは画像だとかここは見出しだとか見た目で判断していることを、音声読み上げで聞いて利用しているのを知って衝撃を受けました。それで、ぜひスクリーンリーダーでもウェブサイトを使って欲しいという思いから、スクリーンリーダーに偏った取り組み方になりがちなのかもしれませんね。
伊敷
そうですね。その誤解の最たるものとしては「スクリーンリーダー用の専用サイトを別に作った方がいいのでは?」というものがあります。これも答えは「NO」です。理由は2つあります。まずひとつは画像や動画をふんだんに使ったグラフィカルなウェブサイトと、テキスト中心のスクリーンリーダー用の専用サイトを作った場合、どうしても後者の更新が滞りがちになります。ウェブサイトの更新をする人も普段はグラフィカルなサイトの方を使っているので、スクリーンリーダー専用サイトへの意識がどうしても低くなってしまうんですね。こういう状態が続くと、結局スクリーンリーダーユーザーには最新の情報が届かない、グラフィカルなサイトを使う人と同じ情報を得られないという状況になります。これはもう「アクセシブル」とはいえないですよね。
よっこ
確かに、元のサイトの更新はするけど、スクリーンリーダー専用サイトの更新が忘れられたり、後回しになったりすると困りますね。
伊敷
もうひとつは疎外感です。スクリーンリーダーユーザーだけ別のサイトに誘導されるというのは、何か特別扱いをされているように感じて、少しさびしく思いますね。また、スクリーンリーダー専用サイトだけを使っている場合「更新はしっかり行われているのか、全ての情報が提供されているのか」という不安を常に感じてしまいます。
よっこ
私も伊敷さんと同じページを一緒に見て話をしたり、情報を共有したりしたいと思うから、グラフィカルなページとスクリーンリーダー用のページを分けない方が嬉しいですね。
伊敷
「ウェブアクセシビリティ=スクリーンリーダー」という図式はまだ根強くあります。「スクリーンリーダーでウェブを見るにはハードルが高いだろう」と思って改善に取り組んいただいているのはありがたいのですが、それだけでは不十分だ、というところは明確にしたいですね。サニーバンクでは、スクリーンリーダーユーザーだけではなく、弱視や肢体不自由、発達障害や精神障害など、多様な障害のある人がウェブサイトをチェックすることをとても大事にしています。ぜひ活用してほしいですね。
寺島
「ウェブアクセシビリティ=文字のフォントをUDフォントにすればいい」というのも、クライアントさん側からよく聞きますね。フォントを変えてもウェブ制作の値段には加算されない部分ですから取り組みやすいのかもしれませんが、それだけをやればいいというわけではないですよね。
くらげ
アクセシビリティの機能というものは、スクリーンリーダーで読めればいい、UDフォントに変えればいい、というものではないのはわかりましたし、また、弊社のウェブアクセシビリティ診断の意義も改めて確認することができました。しかし、具体的に「どういうサイトがアクセシブルなサイトなんだろう」という疑問がぐるぐるしています。たとえば「このサイトが分かりやすい」というお手本みたいなものってあるんでしょうか?
伊敷
「お手本になるサイト」の質問はよくあるんですが、とても難しい質問です。サイトの個別の要素・一部を取り出せば「アクセシブルだね」というサイトはたくさんあるんです。でも、サイト全体でアクセシブルか?となると別な話なんです。ですから、「総合的にアクセシブルか」という観点から「このサイトがいいです」とはなかなか言いにくいんですね。逆に、くらげさんはどういうサイトがアクセシブルなサイトだと思いますか?
くらげ
言われてみれば、パッと思い浮かぶサイトはちょっと出てこないですね。どうしてもテキストがメインのサイトというイメージですが、先程の話を踏まえると、文字ばかりのサイトが使いやすいというわけではないとわかりましたし、見た目がシンプルだから本当にアクセシブルなのかもちょっとわからないんですよね。ただ、少なくとも聴覚障害者にとっては動画サイトはそれだけで使いにくいです。字幕がないと理解できない場合もあるし、自動的に再生が始まっていて大音量で音が流れていることに気づけなかったりすることもありますし。
伊敷
見た目がシンプルであるとか、そういう観点だけでは捉えきれないものがあって、だからこそいろんな障害のある人の意見があってはじめて「アクセシブルかどうか」がわかるんですね。

アクセシビリティはデザイン中心ではなく人中心

寺島
シンプルという言葉もなかなか難しいのですが、デザイナーの立場からすると常に「シンプル」にしたいんですよ。要素は重複しないように、見ている人が出来るだけ少ない労作で、最も多くの情報量を取れるようにするのが基本です。だから、この文脈で話す「シンプル」というのは、一般的に考える「見た目がシンプル、要素が少なく見える」という意味とはちょっと違うかな、と感じます。見た目をシンプルにするというより、ヘッダーなら基本のヘッダーの場所にあったり、見出しには見出し要素が使われていて、意味もなく大きな文字が書かれていないとか、そういう「無駄凝り」がないサイトという意味だと思います。
伊敷
僕がここで使う「シンプル」というのは「画像や動画を使わない、テキスト中心のデザイン」です。
寺島
なるほど!しかし「文字のみ」にこだわると、今度は文字の読み取りに困難のある人やその言語を知らない人にとってはアクセシブルでないサイトになってしまいますよね。画像や動画を入れることで、ディスレクシアなどのような学習障害のある人や、日本語を母語としない人にも情報を伝えることができますよね。
よっこ
画像や動画もなんですが、最近お問い合わせ用のチャットや、トップに戻るボタンなど、ページ上をふわふわしているボタンがあったりするのですが、あれってスクリーンリーダーでも使えるようになっているのかなと気になります。
寺島
作り手の方は何か新しいことが出来るようになったら発表したいという気持ちもありますし、その時にあらゆる人に向けたサービスにしなければならないという意識もあまり持たないと思います。特にターゲットが狭いサイトを作る際にはコスト圧縮を求められることも多いですし、すべてのニーズを満たすことを要求するのはなかなか難しいかもしれません。
伊敷
画像や動画を使う際にも、また新しい技術やデザイン手法を採用する時にも、ウェブサイトをいろんな使い方をする人がいるということは忘れないで欲しいですね。寺島さんが言うように、実際やってみると難しいと思いますが、「どうすればアクセシブルになるのか」という議論をすることそのものがとてもクリエィティブなことだと思います。
よっこ
最新の技術やデザイン手法をいれてかつアクセシブルだなんて、かっこいいですね!

「文字サイズ変更ボタン・色反転機能・読み上げ機能」は誰のため?

伊敷
自治体や省庁のウェブサイトなどで、文字サイズ変更ボタンや、色反転機能、読み上げ機能が実装されているものがありますよね。みたことあります?
くらげ
行政関係だけでなく、大手企業のサイトにもついているのを見たことがあります。
伊敷
これらの機能の紹介ページを読むと、視覚障害者へのアクセシビリティ向上を謳っていることが多いのですが、少なくとも僕の周りにいる視覚障害者で、これらの機能を使っている人はほとんどいません。弱視の人は画面拡大ソフトなどを使ってウェブにアクセスしているので、文字が小さいと感じた時は画面拡大ソフトの方で文字を大きくします。また、全盲の人の場合、スクリーンリーダーを用いてウェブにアクセスしているので、ウェブサイトに実装された読み上げ機能を必要としていません。
くらげ
え?じゃあ、これらの機能はあまり役に立っていないってことですか?
伊敷
役に立っていないと言うか、そもそも視覚障害者のニーズにほとんどマッチしていない機能だと思います。そもそも、弱視の人の場合、特定のウェブページの文字だけでなく、ブラウザのメニューやアイコンなども拡大して見たいわけです。また、全盲の人の場合、そのページにたどり着くまでの操作もスクリーンリーダーで行う必要があります。どちらの場合も特定のウェブページに対するアクセシビリティだけを必要としているわけではないんです。
くらげ
マッチしていないのは、確かにそうですよね。



上濱
突然ですが、メジャメンツ代表の上濱です! 補足すると、以前はブラウザ自体に文字サイズを変更する機能がなかったので、文字が小さかったりマーキーやブリンクで読みづらい時などはソースコードを見て文章を読んでいたこともありました。これを解決するために、ウェブサイト側で文字サイズを変更する機能が実装された時代もありました。その後ブラウザに拡大機能がつきましたが、最初はテキストだけを拡大する機能だったのですぐにレイアウトが崩れてしまっていました。さらに、ページ全体を拡大する機能が追加された、という経緯があります。



伊敷
さらに言えば、これらの機能を必要としている人にとっても不十分なことが多いです。例えば文字サイズの拡大が一段階しかできなかったり、拡大した時にレイアウトが崩れて文字が重なって読めなくなってしまったり…。文字サイズ変更ボタンそのものが見づらくて見つけられないなんてこともあります。音声読み上げ機能の場合も、読み上げを途中で停止・再開する機能がなかったり、ヘッダー部分にあるロゴやナビゲーションメニューも全て読み上げてしまったり…。
よっこ
文字サイズの拡大については、JIS X 8341-3(ウェブコンテンツのアクセシビリティに関するJIS規格)では、支援技術なしで200%まで拡大でき、かつ、拡大した際もレイアウトが崩れて読めなくなったり、サービスが利用できなくなったりすることがないように求められていますよね。逆にしっかり実装できているところは、文字を拡大していくと、スマホで表示する時のようなレイアウトになるものもありますね。
くらげ
そもそも、なんでこれらの機能が実装されてるんですかね。
よっこ
例えば、内閣官房が出しているウェブサイトガイドがあるのですが、その中に掲載されているデザイン例に文字サイズ変更ボタンがついていたりします。それを踏まえてのことなんじゃないでしょうか。
伊敷
以前、ある議員さんが自治体に対して「隣の自治体ではこういった機能を搭載してユニバーサルデザインに取り組んでいるのに、うちではやらなくていいのか」と指摘してきたので、このような機能を実装したというケースも聞いたことがあります。いずれにしても、ユーザーのニーズをしっかり把握し、それにマッチした機能にして欲しいと思います。例えば文字サイズ変更ボタンは、弱視の人はほとんど使わないかもしれないけれど、ITに詳しくない高齢の方には有効かもしれませんよね。音声読み上げ機能にしても、日本語に不慣れな外国人で、読めないけど聞いて理解はできるという人には有効かもしれませんし、ディスレクシアなど文字を読むのが苦手な方にも有効かもしれませんよね。ガイドラインに載ってるから、とか、誰かに言われたとか言う理由で、深く考えずにこれらの機能を実装してしまうのはクリエイティブじゃないと思います。
くらげ
実際に当事者が必要かどうか、というよりも「よその自治体がやっている」とか「上が決めたガイドラインに沿っているか」が重視されてしまうんですねぇ。それは確かにクリエイティブな作業ではないですね。
伊敷
アクセシビリティに取り組むということは「なにか特定の機能を搭載すること」だけではなくて、もっと本質的にコンテンツそのものをアクセシブルにすることだ、という理解が広まって欲しいと思います。
文字サイズ変更ボタンを説明するイラスト:文字サイズ変更ボタンはウェブページの右上あたりに置かれることが多いです。イラストの例では「標準・拡大」の2つのボタンがあります。文字色と背景色の組み合わせを変えられるボタンがあることもあります。設置して終わりにならないようにしっかり考えていきましょう!

「残念バリアフリー」にならないために

くらげ
ちょっと違うんですが、行政が行う聴覚障害者が関わるイベントには手話通訳者が派遣されることはとても増えました。これ自体はとても良いことなのですが、「手話がわからない聴覚障害者」のほうが本当は多いんです。手話がわからない方が「手話がわからないから文字による情報保障をしてほしい」とお願いしても「手話通訳があるから情報保障はしています」という対応をされたことがある、と聞いたことがあります。「手段と目的」は簡単にひっくり返ってしまうんですね。私はこういう当事者にとって使いもにならないバリアフリー関係のことを「残念バリアフリー」と呼んでいます(笑)
よっこ
以前私がいた公的機関では独自のガイドラインを作って、そのガイドラインに沿ってウェブアクセシビリティに取り組んでいたのですが、ガイドラインに沿ってページを作っていた職員さんでも、それをなぜやるのか、しっかり理解した上で取り組んでいた方はあまりいないのではないかと思います。逆に、より伝わりやすいように、見やすいようにと工夫してガイドラインにないことをやっている場合もあり、それがアクセシブルではない場合には修正するのですが、なぜそれがアクセシブルではないのか説明して、理解してもらうのが難しいこともありました。実際に利用している人のことを想像できていないからだと思うのですが、特定の誰かに対してだけではなく、さまざまな利用者にとって「何が使いやすいのか」を想像したり、当事者の意見を聞いて考えることが大事ですね。
寺島
「当事者」が声を上げていかないとデザインする側も気づかないと思うんです。別にデザイナーは悪気があってそうしているのではなくて、本当に「気づかない」ことなんですよ。当事者が「私たちのための機能かもしれないけど、私たちには届いてないですよ」というのをフィードバックする仕組みがあるといいのかもしれません。
よっこ
企業や公的機関などでも、当事者の意見を聞くという場合に、どこに何を尋ねればいいのかわからないと思いますし、そういう時は、ぜひ、サニーバンクのウェブアクセシビリティ基礎診断を利用していただけるといいですね!!

アクセシビリティは情報を減らすことではない

くらげ
さきほど伊敷さんから「コンテンツ自体をアクセシブルにしてほしい」という話があったと思いますが、その中でも特に大切にして欲しいことはなにかありますか?
伊敷
前回の座談会で、「公的機関のウェブサイトは福祉に関するページだけではなく、サイト全体をアクセシブルにして欲しい」という話をしました。また、今回の話のはじめの方で「スクリーンリーダーのための専用サイトを作ってしまうと疎外感を感じるし、ほんとにこの情報で全部なのか、全ての情報が提供されているのかわからない」という話をしました。どちらの場合も「一部の情報だけではなく、全ての情報を提供して欲しい」という考えから来るものです。だから、「アクセシビリティに取り組もう」といったときに「情報を要約したり抜粋したりして減らそう」という方向に考えがいってしまうのは避けてほしいなぁと思いますね。
くらげ
具体的にはどういうことでしょうか?
伊敷
先にウェブではない例をお話ししますが、僕は東京都の広報誌などを点訳したものを送っていただいています。しかし、どの資料にも表紙に「抜粋」と書いてあります。
寺島
それは「最初に抜粋した点字資料がある」ではなくて、「広報誌などの抜粋だけが点字になって送られてくる」という意味ですか?
伊敷
そうなんです。活字の広報誌を抜粋したものを点訳して送ってきているんです。誰がどういう基準で抜粋しているのかわからないですし、僕としてはどの記事を読むかは自分で選びたいですね。少なくとも、活字版の目次などの情報の全体像だけでも把握したいですね。
くらげ
作業するサイドからすれば全部を全部点訳する労力は膨大なものですから「抜粋」になってしまうのはわからなくもないのですが、伊敷さんとしては全部点訳してほしいのでしょうか?
伊敷
広報誌をすべて音声化するとか点訳するとかは予算も人手もかかるので、現実的ではないですよね。でも、広報誌の内容がアクセシブルな形でウェブ上に公開されていれば全ての情報を知ることができるし、どの記事を読むかも自分で選ぶことができますよね。
くらげ
「アクセシブルな形でデータがアップされているなら、あとはこっちで工夫して情報を得ることができる」という感じになるんですかね?
伊敷
まさにそういうことです。視覚障害当事者の中にも「情報はもっと絞って欲しい、その情報が自分にとって必要かどうかをいちいち判断するのは大変」という声があります。僕としてはとても残念です。あくまでも情報を選ぶのはユーザー自身であって欲しいし、ユーザーにはそのために必要なリテラシーは身につけて欲しいです。僕自身この1年で視力が落ちて、スクリーンリーダーをメインで使うようになって、その大変さを身に染みて感じていますが、それでもやはり情報は自分で選びたいです。
寺島
ウェブアクセシビリティの話題は「文字の太さ」や「読み上げができるか」など機能的な話が多くなりますが、当事者がアクセシビリティを強く求めるのは、「全体としてこれだけの情報量があります」ということを確認したいからなのではないでしょうか。もし、一部の情報を正確に渡されても「全部の情報はこれだけある」と見通せないととても不安だと思います。全部をとりあえず読める形で渡されれば、「あとはこちらで選択して読む」ということができますよね。「全部の情報を私はいらない」という人も当然いますけど、だからといって全部要約・抜粋でいい、とはならないと思います。「この人は発達障害だからこれ、聴覚障害だからこれ」というのではなくて、あらかじめ手段を複数用意しておくことで、選べるようになるのが良いのではないかと思いました。
伊敷
まさにそのとおりです。「何が必要で何が必要ではないのか」は自分で考えて決めたい、という当然のところを保障してほしい、というのがウェブアクセシビリティの考え方として非常に重要ですね。
くらげ
「全部の量が見通せない」ということは「他の人がどれくらい知っているか」ということを推察することすら難しい、ということで疑心暗鬼になりやすいのですよね。こういう「不安」もどんどん世の中に出して行く必要があるのでしょうね。
伊敷
ウェブの例でお話しすると、グラフとか路線図みたいな複雑なデータを画像として表現することってあると思うのですが、代替テキストに「〇〇のグラフ」や「路線図」としか記述されていないウェブサイトが多くあります。これでは画像で伝えようとしている全ての情報を伝えきれていません。グラフの場合は、画像内のデータを表にしたり、そのグラフで伝えたい特に重要なことを代替テキストに含めるなどして欲しいです。路線図の場合も、各路線がどの駅を通るのか全ての情報を知りたいのが本音です。
よっこ
特定の障害に対して個々に特別な対応をする、というのではなくて、ウェブの情報をアクセシブルにすることで、さまざまな方法でアクセスするさまざまな人たちに、同じ情報を届けることができるといいなと思います。ひとつのコンテンツをいろんな使いかができるって、ウェブの本質だと思います。同じウェブページを見て伊敷さんと「この表現アクセシブルだね」って話をするとか、寺島さんにデザイナーとしての意見を聞くとか、同じ動画を見てくらげさんと感想を言い合うとか、コンテンツがアクセシブルだと、特に障害を意識せずに一緒に楽しむことができます。やっぱりアクセシビリティっていいなと思います。
伊敷
では、今日はこのへんで。お疲れさまでした!

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