日曜劇場『ラストマンー全盲の捜査官ー』感想会 第3回〜音声解説のこと
4月23日にスタートしたTBSテレビの連続ドラマ日曜劇場『ラストマン―全盲の捜査官―』も中盤に差しかかり、福山雅治さん演じる皆実広見と、大泉洋さん演じる護道心太朗、2人の息もピッタリになりました。 サニーバンクでは、初回放送から、主に視覚に障害があるワーカーが参加して実施する感想会を続けています。 3回目となる今回のコラムでは、第3話冒頭のシーンで触れられた「副音声」=「ドラマの音声解説」にフォーカスします。
執筆:やまちゃん
【今回集まったワーカーさん】
- やまちゃん・・・中途失明の全盲(今回執筆を担当)
- Funky Kei(Kei)・・・中途失明の全盲(皆実を超える音のプロ)
- ふすま・・・中途弱視(射撃の名手)
- ゆう・・・先天性の弱視(柔道の猛者)
- 鈴木・・・先天性の弱視(ワールドトラベラー)
- 榎戸・・・中途弱視(テレビマン&ライター)
【サニーバンクスタッフ】
- 伊敷・・・サニーバンクのアクセシビリティアドバイザー。先天性の弱視だったが、3年ほど前に全盲となる。アクセシビリティのコンサルタントなどを行う。
- 板垣・・・サニーバンクのアクセシビリティアドバイザー。電動車いすを使用する身体障害当事者。ウェブアクセシビリティ診断・ユーザ評価などを行う「NPO法人アイ・コラボレーション神戸」の理事長。
- よっこ・・・事務局スタッフ。サニーバンクのアクセシビリティに関する案件を主に担当し、障害当事者ワーカーさんと日々一緒に仕事をしている。
今回のテーマ"副音声=ドラマの音声解説"に触れている冒頭のシーンについて
――<スイートルームで、皆実、心太朗、吾妻が一緒にドラマを見ている>
心太朗が「テレビ…副音声で見ないんですか?」と尋ねる。
すると皆実は「余白がなくなるんですよ。音楽とセリフだけで情景を想像しながら見るのが一番好きです」と答える。
時間にして1分にも満たないシーンですが、ここではとても巧妙に"音声解説"というコンテンツの存在にスポットを当てています。音声解説は視覚に障害がある人に、テレビや映画などのセリフやナレーションだけではわかりにくい人物の動作や情景などを音声で伝えるために付与するものです。「音声ガイド」「副音声」「解説音声」などとも呼ばれます。音声解説付きの番組では副音声として音声解説が提供されることが多く、音声解説のありなしを選んで視聴することができます。
実は、「ラストマンー全盲の捜査官ー」でも副音声で音声解説が提供されています。
リモコンの音声切換ボタンで副音声にすると、台詞や効果音の合間に、場面の切り替わりや登場人物の動きや表情などを説明するナレーション付きでドラマを楽しむことができます。ちなみに全盲の筆者は、この音声解説付きで「ラストマン」を楽しんでいます。
見逃し配信が提供されている「TVer」でも、「解説放送版」として、音声解説付きの「ラストマン」を視聴できるようになっています。
よっこ:ところでみなさん、皆実さんは音声解説なしで見るって言っているけど、どうなんですか?音声解説なしで見る方っていますか?
伊敷:僕は解説付きでみるけど、全盲の友だちの中にも皆実と同じように想像しながら楽しみたいという理由で、音声解説なしで作品を見る人がいます。
やまちゃん:うーん。でも、解説がないと全く理解できないシーンもありますよね。
Kei:しっかり作り込んだ映画やアニメだと、音の描写がリアルなものもあって想像もしやすいです。そう考えると、目線や表情などで心理描写をするようなドラマはちょっと難しいかも。でも「ラストマン」は音声だけでも、想像して楽しめるところが、たくさんありますよ。
伊敷:そうそう、他のドラマと比べて、足音とかまわりの音がよく聞こえる気がします。
ーー音声解説なしでも状況が伝わる作品もあるみたいです。「ラストマン」ももしかしたら、見えない人にも音で伝える工夫がされているのかも?
鈴木:私は弱視なんですけど、テレビの音声を切り替える方法を知らなくて、前回の感想会で教わりました。リモコンの音声切換ボタンには、さりげなくポチッと突起が付いているんですよね。見えない人にも見つけやすくするようになっているのかなと思うのですけど、そのおかげで、私も音声解説でドラマを楽しむことができるようになりました。
それで今は、1回目は音声解説付きで、2回目は音声解説なしでじっくり見る、みたいな感じで楽しんでいます。
ゆう:僕も音声解説で見ています。そもそも全盲の皆実が、音声解説を使わないという選択をしているところも、視覚障害=音声解説という決めつけになっていなくていいですよね。
伊敷:音声解説を利用するかどうかも、人それぞれですよね。重要なことは、利用するかしないかを選べることですよね。
一同:そうそう
板垣:自分は"ながら見"をすることも多いんですけど、そういうときは、音声解説があると助かるし、解説を聞いて気づくことも結構あるんですよね。
よっこ:そうそう、あと、スマホの小さい画面で視聴する時に、画面が小さくてよく見えないところが音声解説のおかげでわかる、ということもあります。ラストマンとは別のドラマなんですが、登場人物が手に何か持って走っているシーンがあったんですけど、何を持っているのかよく見えなくて、でも音声解説で「六法全書を持って走る〇〇」とか解説されていて、あぁ六法全書持ってたんだ〜重そう、とか思ったりしたことがありました。
ふすま:ちょっとネタバレっぽく感じることもありますけどね(笑)。そういうところも含めて、”選択できる”というのがいいですよね。
Kei:想像できる余白も大事なんです。だから、背景の音だけでも想像できる部分には、わざわざ解説はいらないし、説明がごちゃごちゃすることで、作品の雰囲気を壊してしまうこともあるので。
ーー説明しすぎるとネタバレになってしまったり、足りないと状況が伝わらなかったり・・・音声解説、奥が深そうです。
よっこ:テレビ局によって解説の雰囲気が違うような気がするんですけど・・・
伊敷:日テレの一部のドラマでは、声優さんが音声解説を担当していたりしますね。そんなところでも、テイストが違って聞こえるかもしれませんよね。声優好き・アニメ好きにとっては音声解説自体が楽しみのひとつにもなりますね。
榎戸:音声解説も変わってきていて、以前はいかにも"画面を説明してます"みたいな感じが強かったんですけど、最近の解説は、見える人が聞いても、楽しめるようなコンテンツになってきていますよね。
やまちゃん:たしかに。とくに映画の音声ガイドで感じますね。多くの方々が、それはもう、一生懸命こだわって作ってくださっていますものね。私はいろいろな方と映画を観に行きますが、音声解説はもはや、"見えない人たちだけのものではない"という領域に入っていると思いますよ。だから、未体験の方にも、ぜひ試してもらいたいですよね。
板垣:それから、「ラストマン」には、聴覚障害者向けの字幕も付いているんですよね。
よっこ:そうなんです。テレビの場合、主な登場人物のセリフの文字には色がついていたり、表示位置を変えることで誰がしゃべっているのかがわかるようになっているんですよ。だから、さっき伊敷さんが工夫されていると言っていた、足音やまわりの音についても聞こえない人にも伝わるようになると、よりみんなで楽しめるようになるかもしれないなと思います。
広がる映像バリアフリーへの取り組み
1983年、日本テレビ「火曜サスペンス劇場」において、日本初のテレビドラマ音声解説が提供されました。また同じ1983年、NHK連続テレビ小説『おしん』において、文字多重放送による日本初の台詞字幕が提供されました。
それから40年、ドラマや映画のバリアフリーが広がっています。
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