【ウェブアクセシビリティ座談会 No.5】新アドバイザー板垣さんに聞きました!
- くらげ
- サニーバンクのくらげです。聴覚障害とADHDの当事者です。この連載はアクセシビリティとはなにかをお話しながら理解を深めていこうという企画です。本日はゲストをお招きして話し合っていきたいと思います!まずはいつものメンバーの自己紹介からお願いいたします。
- よっこ
- サニーバンクのアクセシビリティ担当のよっこです。前職では自治体広報担当課でウェブアクセシビリティ向上に取り組んでいました。「みんなで一緒に楽しみたい!」がアクセシビリティのメインテーマです。
- 伊敷
- 伊敷政英(いしきまさひで)です。先天性の視覚障害でロービジョンと全盲の間を行ったり来たりしています。サニーバンクでは、主にアクセシビリティ関連のアドバイザーをしています。趣味は音楽で、最近ハマっているのは竹内アンナ、snack time(スナックタイム)です。お酒とコーヒーも好きです。お酒は日本酒が好きですがなんでも飲みます。
- 寺島
- 漫画家の寺島です。発達障害のある2人の子どものママで自身も強いASD傾向があります。このコラムではイラストやアイコンも担当しています。普段はWeb制作会社でパートをしているので、この中では唯一の制作側という事になりますね。よろしくお願いします。
- くらげ
- さて、今回のゲストは、2021年3月1日付でサニーバンクの新たなアドバイザーとして就任していただいたNPO法人アイ・コラボレーション神戸理事長の板垣宏明(いたがきひろあき)さんです!今日は板垣さんにいろいろお話を伺ってみたいと思います。では、板垣さん、自己紹介をお願いいたします。
- 板垣
- はじめまして、板垣宏明です。「特定非営利活動法人アイ・コラボレーション神戸」の理事長を務めています。先天性の身体障害者で、障害名は「先天性多関節拘縮」で、普段は電動車椅子に乗っています。NPOとしてウェブサイト制作やシステムの開発、UI設計・UIデザインなどの仕事をしていますが、僕がメインで担当しているのはウェブアクセシビリティのJIS診断を基にした「ユーザー評価」ですね。また依頼があれば、全国どこにでも行って喋るようなこともしてます。お酒は全く飲めません。コーヒーもあんまり飲まないですね。音楽は特定の曲を聞くというよりも、スマートスピーカーに「Alexa 音楽をかけて」と話しかけて自動的に流れてくる音楽を楽しんでいます。
伊敷さんと板垣さんの出会いは・・・
- よっこ
- サニーバンクのアドバイザーに就任いただけたのは伊敷さんとのご縁によるものとお聞きしていますが、お二人はどのようにして出会ったんでしょうか?
- 伊敷
- もう10年くらい前、Cocktailzとして個人事業をはじめたばかりのころなんですけど、Cocktailz主催でウェブアクセシビリティのセミナーを開いたんですね。そのときに来ていただいたのが初めてでしたね。挨拶したら「今朝、神戸から来ました!」とおっしゃるのでびっくりしてしまいました。
- 板垣
- もう10年なんですね、懐かしいなぁ。あれはちょうど2010年のJIS改正があったばかりの頃ですね。
- 伊敷
- そうそう…。その後、連絡を取り合ったりはしていたんですが、仕事でご一緒するようになったのはそれから2〜3年先ですね。僕が神戸市役所でウェブアクセシビリティに関する職員向けの研修を担当するようになって、そこからですね。
- 板垣
- 伊敷さんが研修を始めてから数年経ちますけど、研修と合わせて、最初にウェブアクセシビリティ方針の策定もお願いしたんですよね。
- 伊敷
- 神戸市役所ではすでにウェブサイトをアクセシブルに更新するためのマニュアルが整備されていました。また、JIS試験とユーザー評価も毎年行っていました。なので、ウェブアクセシビリティ方針を作るだけではなくて、これまで行われてきた取り組みも含めて、神戸市としてのアクセシビリティに関する考え方をまとめるのがいいかなと考えたんです。
- 板垣
- 「ウェブアクセシビリティへの基本的な考え方」ですね。
- 伊敷
- そうです。この中で僕が大事にしたのは、「全庁的に取り組みます」と「継続的に取り組みます」です。職員向けの研修でもこの2点について丁寧にお伝えしています。
- 板垣
- 伊敷さんの研修の意義はとても大きくて。以来ウェブサイトの更新を担当する広報課に他の課から「ここはこういうふうにアップしようと思うけどアクセシビリティ的に大丈夫なのか?」とか問い合わせが頻繁にあるみたいなんですよ。一緒に仕事をしていてよかったと思います(笑)
- くらげ
- ところで、板垣さんは最初からウェブアクセシビリティをやりたくて今のNPOに入ったんでしょうか?
- 板垣
- 職業訓練校を卒業してから就職活動をしたときに30社くらいから断られて、今のNPOに就職することになりました。だから「なにかやりたい」というこだわりがあったわけではなかったんです。ウェブサイトもそれまでほとんど作ったことはなくて(笑)その後、必死に勉強してなんとかウェブ系の仕事でやっていけるようになったという経緯です。最初はメモ帳を開いてウェブサイトを作っていましたよ。
- よっこ
- 私も最初はメモ帳でした。当時は今のような直感的にビジュアルで見ながら操作できるウェブサイト制作アプリもなかったですからね。20年ぐらい前の話ですか。
- 寺島
- 懐かしい!でも、私は今でも数行の更新ならたまにメモ帳使ってますよ(笑)
- 板垣
- 基本ですからね(笑)それで、メモ帳でコーディングの勉強をしながら、アイコラボ自体が立ち上げ当初からアクセシビリティの事業に取り組んでいたので、関心を持ち、少しづつ学びながらシフトしていきました。
「アクセシビリティの祭典」をはじめたきっかけ
- くらげ
- なるほど。最初から「アクセシビリティ」を前提に勉強とか活動をされていたわけではなかったんですね。最近では、板垣さんが理事長である「アイ・コラボレーション神戸」が事務局となって、「アクセシビリティの祭典」という大きなイベントを開催してますけれども、これはどういうイベントなんでしょうか?
- 板垣
- 「アクセシビリティの祭典」は、自治体・企業・制作会社・障害者支援施設などに属する方々、障害を持つ当事者など様々な立場の人が、新しいアクセシビリティ技術に触れて体感できるお祭りです。
- くらげ
- 具体的にどんな志…というか思いで「アクセシビリティの祭典」を開催するようになったんでしょうか?
- 板垣
- 僕、お祭りごとがめちゃくちゃ好きで、それで何か「お祭り」みたいなことをしたいと考えたんですよ。7~8年前は世間的にもアクセシビリティっていう言葉がまだまだ浸透していないような状態だったので、それを啓発するようなイベントをやりたいなと。
- よっこ
- ウェブ制作から、アクセシビリティを学んで、イベントへ…これまでやってきたことが実を結んだ感じですね。
- 板垣
- このような形のイベントにしたのは、一般にある「福祉はかっこ悪い」みたいなマイナスなイメージを払拭したいというのがあって。僕は視線入力で画面を操作しながら会話してる人とか、手話で会話するとかってかっこいいと思ってるんです。「福祉で頑張ってるね」とか「障害者の人たちはよくやってるね」とか、そういうイメージを持っている人たちにも「福祉ってかっこいいやん」と、伝えたかったというのがあります。実際に技術を駆使して自分のやりたいことを伸ばしていく、出来ることのイメージを広げていく様子を実感できるようなイベントをお祭りにして、みんなでワイワイできたらいいなって考えています。
2021年は「みんなで創ろう!アクセシブルなスーパーシティ」がテーマです
- よっこ
- 今のお話、すごく素敵なことだと思いました。今年は5月21日に「アクセシビリティの祭典2021」がオンラインで開催されますが、そのテーマなどについてお聞きしてよろしいでしょうか?
- 板垣
- 「アクセシビリティの祭典」は世の中の時勢や状況に合わせて毎年テーマを変えて開催しています。今年は「スーパーシティ」というテーマで開催しようと思っています。障害があるとまだまだ生活しにくいところがいっぱいあるんですよね。でもそれをAIとかIoTとか使って住みやすくすることができるのではないか、という方向性でコンテンツを作ったり、展示物を探したり、とかしています。
- くらげ
- とても興味深いですね。そういえば、トヨタ自動車が自社の持っているテクノロジーを総動員して、富士山麓に全く新しい街を作るという実証実験をはじめました。自動運転の自動車が走ったり、AIで人の流れを可視化したり、とすごく面白そうなんですよね。
- 伊敷
- そこ、僕もすごく住んでみたいんですよ(笑)
- 板垣
- そうですね、そういう実証実験とも非常にリンクしていると思います。
- くらげ
- 自己紹介の際に板垣さんが「Alexa」で音楽を流していると話していましたけど、これも一種の「スマート化」ですよね。板垣さんの場合は障害で音楽プレイヤー等の操作が大変ということがあるかもしれませんが、私の家でもスマートスピーカーとスマートリモコンを組み合わせて、「電気消して」「テレビつけて」でリモコン無しでも操作できるようにしてます。なぜかというと、私も妻もADHDでリモコンとかすぐに失くしてしまうんですよ。それでイライラしちゃうので、安いスマートリモコンとスマートスピーカーを組み合わせたらいちいち探さなくていいのでストレスがすごく減りましたね。
- 板垣
- 発達障害の方がリモコンを失くしやすい、というのは発達障害あるあるでよく聞きますが、そういう解決方法もあるんですね。
- 寺島
- 発達障害でもASDが強い方だとむしろ定位置に置いておかないと落ち着かない、という場合もあるので一概に失くすのがあるあるとも言えないのですが(笑) ただ、発達障害のある人は、手元にリモコンがないという事を一度問題ごととして意識してしまうとそれをスキップして次のことができない場合があるんです。探し当てるまで本当にもう何もできないんですよ。そういうこともありただの失くし物以上に問題が大きくなっていると思います。
- 板垣
- そういう苦労があるんですね…。
- くらげ
- デスクワーカー時代には、私も2日連続で財布をなくして会社に遅刻する、ということもありましたね…。今は財布や鍵にスマートタグといって、モノを無くしたりしたときにスマホで探せるタグをつけているのですが、これで随分と探し物の手間が省けるようになりました。
- よっこ
- IoTの恩恵ですね。伊敷さんはなにか視覚障害関係でスマート化の恩恵をうけているものとかありますか?
- 伊敷
- 音声で数値を教えてくれる体温計や体重計があるんですが、最近はスマホと連動できるものも増えていて、スマホを使えるならそっちを買うという人もいます。スマホにデータを蓄積できるし、健康管理アプリとの連動もできますね。あと、Androidスマホと連携してご飯を炊く予約ができる炊飯器とかも出てきていますよ。これまで、視覚障害者にも対応する機器ってその機械の内部に音声を読み上げる機構を組み込まないといけないのでどうしても値段が高くなっていたんですが、喋らせる部分はスマホに任せて、スマホとその製品がやりとりをできるような仕組みを作ろうっていう方向に動いています。こういう動きがスーパーシティにつながっていくんだと思います。
- 板垣
- そうですね。今回のアクセシビリティの祭典はスーパーシティというテーマですけども、「スーパーシティ」ってピンとこない人もいっぱいいらっしゃるんと思うんです。そこで、「こういうのがスーパーシティじゃないか?」というセッションとかも取り入れてます。ご期待ください(笑)
- 寺島
- 何というスマートな誘導!(笑) でも本当にすごく興味がわいてきました。
「アクセシビリティの祭典2021」目玉の紹介
- よっこ
- 私も、なんかすごく世界のテクノロジーが進歩しているんだなぁ、と思いました!今回の「アクセシビリティの祭典2021」で目玉となる展示やイベントはどの様なものなのでしょうか?板垣さんのおすすめなどありますか?
- 板垣
- どれもこれも面白いのでどれが一番の目玉かと決めるのは難しいんですね(笑)強いて言うなら、「Navilens(ナビレンズ)」というスペインの商品のご紹介でしょうか。これは駅にマーカーというQRコードのようなものを貼って、それをスマホで読み取って視覚障害者を案内するというシステムです。以前、全盲の方でも安全に駅構内を動けるようにするという実証実験で情報を集めているうちに「Navilens」を知ったんですね。そこで「Navilens」の開発チームに連絡をとったら「大阪に来いよ」くらいのノリで「スペインに来いよ」と返事があったので僕とスタッフでスペインに行ったんです(笑)
- 寺島
- 板垣さんのいらっしゃる兵庫から大阪って隣じゃないですか。スペインって…!(笑)
- くらげ
- フットワークがめちゃくちゃ軽いですね(笑)
- 板垣
- 実際に現地に行ってNavilensを試したら、もう素晴らしいものでした。でも、日本にその導入事例っていうのが全然なかったので、日本でもちょっと広めたいっていう話をしたら「ぜひ一緒にやろう!」という話になって、もう一年間、ちょっとずつ普及活動をしています。この「Navilens」の紹介がメインセッションになりますね
- 伊敷
- 視覚障害の方が駅のホームから転落するというのは本当に多い事故です。こういうことはあってはいけないのでホームドアの設置を求めていますが、予算の問題もあってすぐに100%普及するとかできないんですね。そこをITの力でカバーする、というのはこれからの社会でとても大事になっていくことだと思います。
- よっこ
- アクセシビリティの祭典、私も参加申し込みしました!アクセシビリティの祭典2021のウェブサイトから、申し込みページに行けるようになっているので、みなさんもぜひ!
- くらげ
- 今年はサニーバンクとしてスポンサードさせていただいています。伊敷さんにサニーバンクの紹介をしていただく予定なので、こちらもぜひご覧ください!というところで、今回はこれくらいでしょうか!板垣さん、ありがとうございました!
- 板垣
- こちらも楽しかったです!ありがとうございました!