日曜劇場『ラストマンー全盲の捜査官ー』感想会 第4回〜多様性と寛容さ

4月23日にスタートしたTBSテレビの連続ドラマ、日曜劇場『ラストマン―全盲の捜査官―』もいよいよ最終章。サニーバンクでは、主に視覚に障害があるワーカーが参加して実施する感想会を、初回放送から続けています。
感想会は盛り上がり、予定の時間をはるかに超えて2時間以上語り合うこともしばしば。すると、これまでに取りこぼした内容がもったいなくなってしまった私たち。
そこで今回のコラムでは趣向を変えて、ドラマ全体を貫くテーマでもある「多様性と寛容さ」について語り合ったことをまとめました。
執筆:やまちゃん
【今回集まったワーカーさん】
- やまちゃん・・・中途失明の全盲(今回執筆を担当)
- Funky Kei(Kei)・・・中途失明の全盲(皆実を超える音のプロ)
- ふすま・・・中途弱視(射撃の名手)
- ゆう・・・先天性の弱視(柔道の猛者)
- 鈴木・・・先天性の弱視(ワールドトラベラー)
- 榎戸・・・中途弱視(テレビマン&ライター)
【サニーバンクスタッフ】
- 伊敷・・・サニーバンクのアクセシビリティアドバイザー。先天性の弱視だったが、3年ほど前に全盲となる。アクセシビリティのコンサルタントなどを行う。
- 板垣・・・サニーバンクのアクセシビリティアドバイザー。電動車いすを使用する身体障害当事者。ウェブアクセシビリティ診断・ユーザ評価などを行う「NPO法人アイ・コラボレーション神戸」の理事長。
- よっこ・・・事務局スタッフ。サニーバンクのアクセシビリティに関する案件を主に担当し、障害当事者ワーカーさんと日々一緒に仕事をしている。
新しいヒーロー像~皆実はスーパーマンだけれど…
――私たちはドラマ『ラストマン』の主人公が全盲で、放送枠がTBSの日曜劇場、しかも演じてくださるのが福山雅治さんということで、それはそれはワクワクしました。
榎戸:ドラマに障害者が出てくると、どうしても福祉的なメッセージが目だってしまう傾向があるけれども、「ラストマン」では、全くそんなことはないですよね。まず全盲の皆実がFBI捜査官であるということがいいですよね。アメリカだったらあるかも!? って。
鈴木:そうそう。以前カナダを訪れたときに知ったんですけれども、カナダでは障害があってもチャレンジすることを認めてくれるし、さらに応援もしてもらえる環境があるんですよね。
でも日本だと“目が悪いから”という理由で、チャレンジすらできないことがまだまだあって、私は学芸員になりたかったんですけど、実習のところで受け入れを断られ、あきらめかけた経験があります。最終的には理解してくださるところもあり、資格取得はできたのですが、障害者ってサービスを与える人としてはウェルカムだけど、一緒に働く同僚としては受け入れ難いんだなと思ったんです。
だから…というわけではないけれど、第1話のあのセリフは響きましたよね。
「足手まといな人間が、周囲に余計な負担をかけていることは分かっています。ただ、私は社会のために自分の力を使いたい。昔と比べればテクノロジーの力によって、多少は自由に動けるようになりました。あとは・・・周りの人たちが一緒に働こうと思ってくれるかどうか、それだけなんです」
榎戸:この言葉には、僕も勇気をもらいました。そして回を重ねるごとに、作中の人間関係が徐々にフラットになっていく様子も描かれていて、いい感じですよね。
伊敷:第4話の「目を貸してください」というセリフは印象的でした。それなりに親しい関係性がないと言えないですからね。
板垣:どういうことですか?
伊敷:普通は「かわりに見ていただけませんか?」みたいにお願いすると思います。「目を貸して」というのはある程度親しい関係性ができていないと言わないかなと思います。
なさそうでありそうな、新しいテクノロジー
――皆実のような、あんなにカッコよくて、頭もよくて、嗅覚や聴覚もずば抜けてよくて…という視覚障害者は、実際にはいないんだけれども、見ていてなんとなくワクワクしてしまうのはなぜでしょう。
ふすま:それって多分、近未来的なイメージにつながるからじゃないかな。アイカメラの機能は、すでに実装もされているわけで、精度と操作性が向上しさえすれば自分たちもあんなふうに動けるんじゃないかって。夢物語とまではいかないレベルのテクノロジーですからね。
あと第1話であった、速聴で目の見えない人が4倍速に対応できるかはわかりませんが、ほとんどの視覚障害者が多かれ少なかれ速聞きしているのは事実。皆実さんはさらに訓練を重ねていると言っているし、だから演出としてもアリだと思いますよ。
よっこ:アイカメラを通じて吾妻さんが皆実さんに周りの状況などを言葉で説明するシーンがありましたが、似たような機能を持つものに「Be My Eyes」というサービスがありますよね。
鈴木:世界中の見える人たちが、私たちに目を貸してくれるサービスですよね。スマホのアプリを利用してカメラに映ったものや状況を教えてもらいます。
コロナの期間、私は実際にお世話になりました。コロナ陽性になってホテルでの宿泊療養になったのですが、コロナの性質上直接対面でのサポートが受けにくかったこともあり、宿泊施設で、部屋の電気や冷蔵庫のスイッチなど、何がどこにあるかとか見てもらって本当にありがたかったです。
「助けるんじゃない。ともに”働く”んだ。」
――ラストマンの醍醐味は、何と言っても福山雅治さんと大泉洋さんという超カッコいい俳優さんが、視覚に障害がある人とない人がかかわっていく姿を、毎週日本中の人たちに届けてくれていることだと思うんですね。また一般的に「見えない人=何もできない人」と思われがちですが、それを払拭するための演出もたくさんありました。
kei:まずはあのセリフですよね。
「ハンディキャップのある人が全員聖人君子だと思ったら大間違いです。私たちは特別でも何でもありません。どこにでもいるごくありふれた人間です」
ゆう:テレビも見るし、伴走してくれる人がいれば ジョギングもするし、 初めての場所にも一人で行く。さらに将棋もしますよ、みたいな。実際、将棋が好きな全盲の人たちって、すごく強いですよね。
鈴木:あと料理だって、ふつうにやっているしね。焼き物が苦手というところは確かにあるけれども、最近は調理器具も充実していますからね。
やまちゃん:全盲の皆実が作った肉じゃがを、心太郎が食べてくれるシーン。自然でよかったなぁ。
榎戸:それから一目ぼれもしちゃうし。そういえば「もてたい」から捜査官になったって言ってましたよね。
鈴木:バツイチで 惚れっぽいというのも、楽しませてくれるエッセンスになっていますね。
ゆう:僕たちができないことをだれかに手伝ってもらうって、実際にはかなりハードルが高いんだけど、躊躇せずに周囲の人に助けを求めるところもいいですよね。
やまちゃん:たしかにそうなんだけど、福山さんみたいなカッコいい人にお願いされたら、そりゃみんなきいちゃうでしょうよ。(笑)
よっこ:たしかにきいちゃうかも!?(笑)
ただ、私がサニーバンクで仕事をする中で、障害のある人が仕事をしやすいようにと考えてやっていることは、以前の職場で障害のない人と働いていたころにやっていたことと、私にとってはそんなに変わらないなって気づいたんです。逆に障害のあるメンバーから「この部分は自分がやりますよ!」って提案してくれたりして、私が助けられている部分もたくさんあります。障害があるとかないとか関係なく、得意な部分を発揮しあって、助けあえる関係ってステキだなと思います。
時代を反映したストーリー
――「ラストマン」は一話完結というスタイルをとった連続ドラマですが、今まさに日本の社会が抱えている課題が毎回出てきていますね。
伊敷:今の社会って、何でも白か黒かはっきりさせたがる傾向があると感じています。でも実際は、その枠に無理やりはめられてしまうと苦しい人たちがいると思います。「ラストマン」では、そういったグレーな部分がいっぱい描かれていますね。
ふすま:事件は解決しても、なんとなくモヤっとした感じが残りますよね。登場人物が置かれている社会的背景とか。
伊敷:あと、SNSでの匿名での攻撃性なんかも、複数のエピソードにちりばめられていましたね。そして、全盲の皆実が、そういった社会のグレーな部分やそういった状況におかれている人たちにしっかりと目を向けています。例えば、料理系インフルエンサー“カナカナ”の正体を知ったときは、お母さんへの思いにまで気を配っていましたね。
榎戸:それからテーマとしては、「ガラスの天井」とか「さまざまな家族のかたち」とか、さらにはバトラーが津軽なまりというのも、多様性を意識しているのかなと感じますよね。
kei:それって障害云々にかかわらず、誰もがマイノリティになりうるということを表現してくれているんじゃないでしょうか。
実のところ中途失明の筆者は、今はほとんどテレビドラマを見ることがありません。でも振り返ると、まだ目が見えていた10代のころは、もちろん見ていました。翌日は学校で友だちとドラマの話で盛り上がったものです。今回この感想会が、再びテレビドラマの話でみんなと盛り上がる機会になりました。放送日の日曜日と、翌日の感想会を、とても楽しみに過ごしています。
センシティブなテーマを取り上げているにもかかわらず、高い視聴率を維持できているのは、エンターテインメントとして純粋におもしろいから。みんながワクワクできるって、本当にステキですよね。 もしかして、「ラストマンロス」になってしまうかも!?
ドラマ感想会コラム最終回につづく...