日曜劇場『ラストマンー全盲の捜査官ー』感想会 最終回〜サニーバンクが考える「ともに働く」こと

2023年9月21日

サニーバンク「ラストマンー全盲の捜査官ー」感想会(テレビと飛行機の影のイラスト)

4月23日にスタートしたTBSテレビの連続ドラマ、日曜劇場『ラストマン―全盲の捜査官―新しいウィンドウで開く』衝撃の最終回を迎え、サニーバンクが実施してきた視覚障害のあるワーカーさんが参加するドラマ感想会も終了しました。 コラムの最終回となる今回は、ワーカーさんの振り返り、感想会の企画者で事務局スタッフのよっこさんに、サニーバンクが取り組んできたアクセシビリティと感想会の意外なつながり、ドラマのテーマのひとつとなった「ともに働く」ことについて話してもらいました。

執筆:榎戸

まずはみんなの振り返りから

ーー参加メンバーのドラマ・感想会の振り返りコメントをご紹介します!

Funky Kei(Kei)・・・中途失明の全盲(皆実を超える音のプロ)

視覚優位といわれる現代、障害者の中でも「全盲」というだけで「なにも一人ではできない」と思う人が多いかもしれません。反対に、『ラストマン』の全盲の主人公がみせた聴覚や嗅覚は、プロフェッショナルとはいかないまでも訓練すれば誰にでも備わった能力です。

全盲だからといって特別ではなく、見えない「ただの人」です。『ラストマン』はエンターテインメントという形式で、見えても見えなくとも協力できるし、「助けてあげる」ではなく同僚として働けることをスマートに提示してくれたと思います。

障害者の役をどうして障害者が演じないのかという問いかけもありますが、「あとは、周りの人たちが一緒に働こうと思ってくれるか、それだけなんです。」とかっこ良く言ってくれたからこそ多くの視聴者に届いたと思います。『ラストマン』というドラマをたくさんの人が真剣にとり組み、おそらく楽しんで生み出してくれたことに心から感謝します。

榎戸・・・中途弱視(テレビマン&ライター)

「こんなふうに、お願いすればスマートなんだ!」
「こんなふうに、凛(りん)としてれば良いんだ!」
そうやって、ドラマや福山さんから逆に教えてもらった気がします。

ふすま・・・中途弱視(射撃の名手)

ドラマで障害者を扱う場合、重い内容になりがちです。ですがこのドラマのように、娯楽性の強い内容であっても、まただからこそ伝わることも多いのではないでしょうか。障害者への接し方が一様で無いように、ドラマでの扱われ方ももっと多様であっても良いと思います。

物議を醸しやすいところがあるので、そう簡単では無いと思いますが。だからこそ、このような良い作品に仕上げて下さった制作陣や出演者の皆様には頭が下がる思いです。

良い時間をありがとうございました。

やまちゃん・・・中途失明の全盲(ライター)

よく聞くことに、「アメリカのドラマでは、登場人物にも障害者とか…ふつうにいるよね」ということがあります。今後、日本のドラマにも、多様性が広がることを願わずにはいられません。

福山&洋ちゃんでは、カッコよすぎますからね。いろいろいて当たり前の第1歩になってくれることを願っています♪

鈴木・・・先天性の弱視(ワールドトラベラー)

今回は普段話す機会が少ないワーカー同士が毎週集まってけっこう深い話ができて有意義でした。自分は一人黙々と仕事するのは向かないなと、つくづく思いました。年に3、4回交流会があるといいなと思います。

ドラマの主人公がすごい能力の持ち主であっても、普通に女性にモテたい人たらしというのがよいなと思いました。そしてコミカルさも良かったです。今後は主役だけでなく、ちょっと重要な脇役、その他大勢的な役にも障害者が登場するドラマがあったらいいなと思います。例えば私のように画面に大きな文字を表示してパソコンを使う社員がいたりとか、主役が視覚障害のあるヘルスキーパーさんのところをよく利用するとか。

ゆう・・・先天性の弱視(柔道の猛者)

視覚障害や、視覚障害当事者の「リアル」を発信し、視覚障害への理解を深めることができたら良いなという目的に賛同し、感想会に参加しました。

最初はドラマの全部の回についてやるかどうかわからないという話でしたが、毎回新しい発見とドラマの面白さと役者の上手さにひき込まれて、あっという間に10回終わった感じでした。コラムも発信できて、初めの目的はきっと達成できたと思います。コラムは、サニーバンクの個性が随所に光って、視覚障害への理解が広がったと思います。

このドラマを作るにあたって、たくさんの視覚障害者の協力やドラマを制作した人たちの理解があったと思うので、力を合わせるってすごいなと思いました。とても楽しい感想会でした。ありがとうございます。(続編ありますかね)

伊敷・・・サニーバンクのアクセシビリティアドバイザー。先天性の弱視だったが、3年ほど前に全盲となる。アクセシビリティのコンサルタントなどを行う。

感想会を通して、ワーカーのみなさんやよっこさん、板垣さん、そして自分自身も、障害や社会をどのようにとらえているのか、どんな思いをもって日々を過ごしているのか少しだけ垣間見えたような気がします。もっともっとみんなのことを知りたくなりました。

こんなふうに一緒に楽しむことができたのは、ラストマンという作品そのものの魅力ももちろんですが、本編・TVerでの見逃し配信ともに音声解説や字幕が付与されていてアクセシビリティが確保されていたからです。作品がめざしたように多様な人々が当たり前に一緒に暮らす、働く、そして楽しむためのベースとして、アクセシビリティは欠かせないということも、座談会を振り返ってとても強く感じています。TBSをはじめ制作に携わったみなさん、本当にありがとうございました(皆見風に)

また別の作品で、あるいはより多様な障害のある人を交えて座談会をやってみたいです。

板垣・・・サニーバンクのアクセシビリティアドバイザー。電動車いすを使用する身体障害当事者。ウェブアクセシビリティ診断・ユーザ評価などを行う「NPO法人アイ・コラボレーション神戸」の理事長。

ラストマン感想会に参加させてもらって、めちゃくちゃ楽しかったです!

ドラマが始まる前のCMで、福山さんが白杖をもって走ってるシーンが使われていて、まあドラマなのでだいぶ盛ったストーリーなんやろうなと思ってましたが、ワーカーさんの話を聞いていて、わたしでは想像すらできないこと(狙いを定めるとかひとをナグルとか指パッチンとか)を実際に生活の中でしてることに衝撃を受けました。また、福山さんが劇中で使用していたアイカメラ、この文明の力はほんまにすごい、ええ時代に生まれてきたなとしみじみ想い、この勢いでもっと手軽にみんなが買える値段になればいいのにと強く思いました。

あとは後日に配信される動画の音声解説付きバージョン、激しいシーンや視覚障害に特化したシーンなど、なるほどここはこうゆうふうに解説説明をするんやなと聞き入ってしまうくらいすばらしい解説内容でした。

前述のような視覚障害のひとの実態や、便利なデバイス、音声解説も勉強になりましたが、なにより、犯人はだれやとかあそこが付き合ってるんやでとかただただモテたいとか、ストーリーからみんなで楽しんで話をできたのが一番印象的で、そこに混ぜてもらえてほんまに楽しかったです!ありがとうございました!

ドラマをともに楽しむ。それはアクセシビリティの原点ではないか?

ーーサニーバンクの事務局スタッフで、今回の感想会の企画者・よっこさんと、今回の感想会を振り返りました。

よっこ:私は、サニーバンクで一緒に働く視覚障害のあるワーカーさんたちのスーパーパワーを日々目の当たりにしてきました。ラストマンが放送されると知って、「このドラマをみなさんはどう感じるんだろう?」って気になったんです。きっと、私のようにこのドラマを視覚障害当事者がどう思うのか知りたい人や、視覚障害当事者のリアルについて知らない人も多いだろうから、それをコラムで発信できたらと思って、感想会をスタートしました。
最初は「毎週集まるって負担にならないかな?最後までやれるかな?まぁ途中でやめてもいいか」って思ってたんですけど、負担どころかみなさん毎週楽しみにしてくれて、気づいたら最終回まであっという間でした。途中、アクセシビリティ界隈で著名なドラマ好きのお二人に参加していただいたり、視覚障害のある人の日常を知ってもらうために感想会のみなさんに話をしていただけないかとお声かけいただいたり、思わぬ展開もしていきました。
私たちが日々向き合っているアクセシビリティの原点は、障害のある/なしにかかわらず同じものを同じように、一緒に楽しめることだと私は思っているんです。 だから同じドラマについて話したり、一緒に楽しめた「感想会」は、その原点が具現化したように思えて、本当にうれしかったです。

「ともに働く」こと

ーー『ラストマン』では、皆実さんと護道さんがバディをくんだり、チームで力を合わせたりして、事件を解決していきました。
実際に障害当事者とともに働いているよっこさんに、障害者と「ともに働く」ということについて聞きました。

よっこ:サニーバンクを立ち上げたメジャメンツ代表の上濱が健常者と障害者の能力について、試験結果や能力などを図にする時に使う5~6角形の図(レーダーチャート)を例に話したことがあったんです。「健常者のレーダーチャートが全ての項目について80%くらいを指すとしたら、障害がある人はどこかの項目が80%より低くなったり、極端に言えば0になったりしてしまうこともあるけれど、逆にどこかの項目が100%とか120%とかすごく飛び抜けていたりするんです」って。今回の皆実さんは、まさにそうですよね。視力を使わなくてはいけない項目は0かもしれない。だけど、別の項目では120%以上になっている。
一般的な組織だと、低い項目に目がいき、どう80%にもっていくかという発想になってしまいますよね。『ラストマン』も最初、皆実さんの同僚は皆実さんの0のところばかりに目がいっていました。でも、最終的には皆実さんの100%や120%の能力をみんなが認め、0の部分はそれが当たり前というか、自然にカバーもできて・・・という感じになっていきました。
サニーバンクのワーカーさんたちも、私が気付けないことに気付いたり、いろんなツールを使いこなしていたり、すごい知識の持ち主だったりします。そしてその強みを発揮して働いていただいています。だから一緒に働いていると、ワーカーさんたちすごいな、私はなんの取り柄もないなって、劣等感を感じたり、落ち込んじゃうことも実は多いんです(笑)。

ーー100%や120%の能力を発揮するためには、よっこさんやサニーバンクのようにそれを見つけて、活かそうとしてくれる意思や人が不可欠だと思います。 どのようにすれば、その能力を見つけたり、活かせたりするのでしょうか?

よっこ:サニーバンクでは、それはあまり意識したことがなくて、はっきりとした答えは持ってないんです。ただ、私は、これまでいわゆる一般的な職場で働いてきましたが、私自身に関しては、そこでやってきたことと、サニーバンクでやっていることは、あまり変わらないなと思っています。
職場の中には、細かいチェックが得意な人とか、計算が得意な人、営業がうまい人、必ず得意/不得意がそれぞれにあります。そういういろいろな人たちがいる中で、どう伝えると目的のことをスムーズにやってもらえるか、よりよい意見が集まるか、など考え、工夫していました。障害があると得意/不得意がはっきり出やすいかもしれませんが、私ができることは変わらないです。ただ、人と関わること、人を知ることが好きで、その人のステキなところすごいところを見つけるのが好きというのはあるかもしれません。あとは、サニーバンクの働き方が在宅ワークだったりオンラインだったりすることもあり「障害」を感じることが少ない面もいいところなのかなと思います。特にアクセシビリティに関するお仕事は、さまざまな異なる障害のあるメンバーがチームを作って、それぞれの特性を発揮して働いているので、お互いのすごいところを出し合って、お互いにお互いのすごいところを認め合って、リスペクトしあっていけるのかなと思っています。


ーーもともとチーム力がある職場、個人個人の力を発揮できるようにと考える職場は、当然障害のあるメンバーを活かすのも上手なのかもしれません。
最後に、今後の展望を聞きました。

よっこ:今回の感想会は視覚障害のあるワーカーさんがメインでしたが、また別の障害のあるワーカーさんともやりたいなと思っています。障害について、障害のある方のリアルな生活について知ってもらうために、情報発信ももっとできるとうれしいです。魅力的なワーカーさんの存在や能力をもっともっと知ってもらいたいです。私だけが知っているだけなのはもったいないから。

ーードラマと感想会は終わりました。しかし、これからもサニーバンクの挑戦は続きます。

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