【ウェブアクセシビリティ座談会 No.9】1年ぶり!〜障害があるとかないとか関係なく、いろんな技術の進歩が楽しみな未来〜

2023年12月15日

ウェブアクセシビリティってなに?うん、うん?うん!と聞いているだけでウェブアクセシビリティがわかる座談会第9回
よっこ
この記事は「アクセシビリティ Advent Calendar 2023新しいウィンドウで開く」15日目の記事です。

1年ぶりです!

よっこ
お久しぶりのアクセシビリティ座談会です。みなさんよろしくお願いします!
伊敷
お久しぶりです。
くらげ
久しぶりですし、まずは座談会メンバーの自己紹介といきましょうか。えっとまず私から・・・サニーバンクアドバイザーのくらげです。聴覚障害とADHDの当事者です。よろしくお願いします。
伊敷
伊敷政英(いしきまさひで)です。先天性の視覚障害当事者で、サニーバンクでは主にアクセシビリティ関連のアドバイザーをしています。
よっこ
サニーバンクスタッフのよっこです。主にアクセシビリティ関連の案件を担当しています。
寺島
サニーバンクアドバイザーの、寺島です。発達障害のある2人の子どものママで自身も強いASD傾向があります。漫画家をやっておりまして、このコラムではイラストやアイコンも担当しています。ところで、今回のテーマは?決まっているんですか?
伊敷
ざっくりと行きましょう。最近アクセシビリティ関連で気になっていることなどありますか?
くらげ
いきなりちょっとずれるんですけど、急に寒くなったせいか指が乾いてしまっていて、iPhoneやパソコンの操作をするのがしんどくなるんです。それで、iPhoneのアクセシビリティの「身体機能および動作」にある「音声コントロール」を試してみたんですが、iPhoneにコマンドを話すだけでほとんどのスマホの操作が完結するんですね。これで仕事がだいぶ楽になりました。それで、改めて「アクセシビリティ機能」は色んな面で使えるんだなと感じたんですが。
寺島
なるほど、つい「アクセシビリティ」というと「聴覚障害者だから文字起こしが役に立つ」みたいな限定された一対一の関係を思い浮かべがちなのですが、iPhoneの「アクセシビリティ」は、どんな人にも役に立つ場面があるということですかね。
伊敷
僕はセミナーなどで「アクセシビリティの対象って誰ですか?」という話をするとき、一時的になにかの障害があるというか「電車の中で動画見たいんだけどイヤホンを忘れてしまった」とか「メガネが壊れたけどウェブサイトを見なきゃいけない」とかっていう状況もあると説明しています。それで、今のくらげさんの話はまさにその話だなぁと思いました。
よっこ
そういえば、私はここのところアクセシビリティのトレーニングの講師をやっているんですが、受講者の方が「iPhoneのアクセシビリティ機能のひとつである『バックグラウンドサウンド』を、集中したい時に使っている」と言っているのを聞いて、そのサウンドの中に「せせらぎ」というのがあるんですが、これって大音量で流したらトイレの音消しの流水音みたいに使えるなと思ったりしました。さまざまな人がiPhoneの機能を工夫して利用している例があるのは知っていたけど、こうしてくらげさんから話を聞くと現実味というか親近感を覚えますね。

静かに休める場所が増えている?

伊敷
音といえば、空港や駅なんかの公共施設で、発達障害のあるお子さんなどを対象にした『カームダウンルーム』とか『クワイエットルーム』が増えている印象があるんですが、くらげさんや寺島さんは使ったことがありますか?
くらげ
ボクはないですね。寺島さんはどうですか?
寺島
私も自分自身ではないですが、確かにそういう場所が増えている印象がありますね。
よっこ
発達障害のお子さんだけではない、ちょっとした休憩所として利用できる空間という意味では、新しく出来るショッピングモールなんかにはもう必ずついているような⋯。
寺島
そう思います。子どもや高齢者を対象にしている大規模施設や店舗は動きが早いです。大阪の話ですが、新しく堺市にできたショッピングモールにも「お子さんが疲れた時などにご自由にお使いください」とか書いてある小部屋がフードコートの奥や、プレイルーム脇に作られています。
くらげ
そういうところの管理はどうなってるんですかね?不届きものが入り込んだりは・・・。
寺島
どなたでも空いていれば勝手に使えるのですけど、ショッピングモールって広場っぽいところから通路に入るあたりに必ずスタッフがいるんですよ。監視カメラでも警備員が見てますし、治安が悪くなるということもないと思います。実際、気分が悪そうに部屋に向かう人がいると、どこからか見ていたスタッフが飛び出してきてアテンドしてますよ。
よっこ
そうなんですね。静かなところということで、奥まった暗い通路や、ちょっとイベント会場などから離れたところにあったりすると、安全面が心配ですが、そういった配慮があると安心かもですね。
寺島
美術館に付いているカームダウンルームにストレッチャーに乗せられた大人の人が運ばれていくのを見たことはあります。倒れたけど病院に運ぶほどではないのかな、迎えが来るまで休んでもらおうということかなという感じでしたね。ああいう空間が増えてくれば、体調が悪くなったら困るから外出しないという人には安心材料になると思います。
くらげ
自分も車という動くプライベート空間を手に入れてから行動の幅がぐんと広がりましたのでよくわかります。もし倒れたら、と思うと出かけるのも躊躇してしまいますからね。
寺島
福祉で用意されるものはいつもギリギリしかないですからねえ(笑)「もしも」の時に使える空間があると必要以上に行動を制限したり、気持ち的にも萎縮しないで済むと思います。
よっこ
そういうことも大事になってきますよね。今は特に障害のある方、障害のあるお子さんの話ですけど、誰でも何かあったときに使えるというのが良いと思います

静かな空間はみんなほしい

くらげ
アクセシビリティとはあまり関係ないかもですが、東京の駅の中に「テレワークルーム」が増えているんです。もちろん、本来はテレワークをするための部屋なんですけど「静かな環境で休みたい」というサラリーマンも結構使ってるみたいですよ。
寺島
昼寝用?(笑)
くらげ
休むといっても一応仕事用ですんで、ちょっとクールダウンしたいとか、落ち着いてメールを返したいとかじゃないですかね。自分もうるさい環境だと考えがまとまりにくいなどありますんで、静かなスペースって割と需要があるんだろうなぁと。
伊敷
僕はこのところありがたいことにイベントに登壇する機会が多くて、アフターパーティーや懇親会にも参加します。その時に、会場がもうすごいざわざわして、どの音を聞いたらいいのかわからなくなって、音に疲れてしまうことがあるんです。そういう時は「5分とか10分とかでいいから静かなところに行きたい」と感じますね。
よっこ
オンライン会議が増えたのに外出も増えているので、出先や移動の途中でも参加しないといけない感じになることもあり「耳だけで参加します」と言いつつもしゃべらないといけないときなどもあります。空港の搭乗口で待っている時に、待合スペースでオンライン会議に参加していてガンガン喋ってる人がいたんですけど、結構な音量の声で喋っていて、内容を聞かれても大丈夫なのかと心配になりました。空港とか駅とかに、「テレワークルーム」があると、こういう時に利用できて良さそうですよね。
寺島
難波の駅にも一個だけ電話ボックスみたいなコワーキングスペースが出来たんです。早速、行ってみたんですが、二重構造になっていて中に入ると外の音はほとんど気になりません。まったく聞こえないわけではないんですが、すごく遠い感じがするというか・・・。
くらげ
助けを呼べばギリ届くぐらいにしてあるってことですかね。
寺島
もちろん、パソコンしか置くスペースはないのですが、通常のコワーキングスペースと比べるととてもお手軽ですし、ちょっとオンライン会議なんてときには便利ですよね。駅にあるので、いざというときに入ってちょっと寝るとかもできそうですし、こういうテレワークルームが増えると助かる人は多いんじゃないでしょうか。
伊敷
僕は基本的に在宅勤務なので静かなところで作業できているんですが、出先でオンライン会議に参加する時など周りに人が多いとざわざわします。このざわざわした中でスクリーンリーダーの音を聞きながら、会議の音声も聞くのはなかなか辛いですね。だんだんスクリーンリーダーや会議の音声の音量を大きくしてしまって、これは耳を悪くするなと心配しています。
くらげ
若い人のイヤホンの使い過ぎによる突発性難聴が増えているらしいですね。聴覚障害者の分野だとYouTubeに自動的に字幕がついたりするようになりましたけど、音漏れとかが不安なので電車の中で音を流さないで字幕で映像を見てる人が増えてるって話を聞いたことがあります。
寺島
字幕が付いてる動画は再生回数が増えるそうですが、たぶんそういうニーズがあるからですよね。
さまざまな人がさまざまな環境でオンライン会議に参加しているイラスト:伊敷さんは音声で聞いています。くらげさんは文字起こしを利用しています。寺島さんはタブレットで参加しています。よっこはスマホとタブレットを抱えてあわあわしています。分身ロボットで参加している人もいます。


文字を音にする技術の発達で読書体験にも変化が

くらげ
Kindleの機能や端末のアクセシビリティ機能を利用して、音声で本を読めるようになりましたけど、あれもビジネスマンに人気がありますね。Audibleも広まってきています。伊敷さんのように視覚に障害のある人にも便利な機能なんだろうなと思いますが、ここ数年で読書体験が変わったりしましたか?
伊敷
この数年というスパンだと、僕はちょうどコロナのタイミングで目が全く見えなくなったんですけど、音声で本が読めるのはとても便利だし、音声で本を読むことが当たり前になりました。
くらげ
いま、伊敷さんが「コロナのタイミングで」とおっしゃっていましたけど、パンデミックでリモートワークが当たり前になってZoomやその他のオンライン会議システムに字幕がつきはじめ、急速に音声認識システムの精度が向上しました。需要があるところには企業もリソースを注ぎ込み、それで使い勝手が良くなってますます他の人が使うようになる、というサイクルができてきた印象です。
伊敷
オンライン会議で、通信環境が悪いなどで声が聞き取れない時にも、字幕機能があれば便利ですもんね。

今年流行のアレ

よっこ
Zoomなどで会議をしているとき、スマホで参加してるから画面が小さくて共有された資料が見えないなどと言われることがあります。また、声を発することができないとか音が出せない環境で参加している人もいたりします。特に障害がない人同士でも、相手が見えない・話せない・聞こえない状況にあるかもしれないと考えるようになって、そういう前提でプレゼンや話し方を考えることも増えたかもしれません。
くらげ
そういう状況が増えたのは結果として良かったかもしれませんね。しかし、今年はいきなりChatGPTが登場して、「会議の要約機能」とかも出てきましたね。いまもZoomを使っていますが、ちょっと前にZoomにも「サマリー」がつきましたよね。あと、画像認識機能も今年になってかなり精度が上がって、この前自分も試して驚いたんですが、画像をAIに認識させるとちゃんと画像の説明をしてくれるんですね。これ、視覚障害のある人も便利に使えそうですが。
伊敷
視覚障害関連の話でいうと、やっぱり画像認識は凄いです。Be My Eyesっていうアプリがあるんですが、その中にBe My AIっていう機能がちょっと前に追加されました。このBe My AIに写真を読み込ませると詳細な説明をしてくれるみたいですね。
よっこ
この前まで放送してたドラマ「ラストマン」の『アイカメラ』も夢じゃないですね。
くらげ
ちょうどこの前、文字が書いてあるほうに向けるだけで文字を読んでくれるメガネのことをニュースで読みました。どうやってその方向に向けるのかは気になりましたが。
寺島
広く見渡して「ここに文字がある」と判断するのは難しくないようですよ。既にスマホのカメラを向ければ、文字やQRコードを抽出してくれるようになってますし、得た情報の重み付けをAIができるようになれば、知りたい情報だけを瞬時に見分けることも可能かも。

AIをアシスタントに

よっこ
もう本当に何でもAIですね。くらげさんは仕事でAIに記事書かせたりとかするんですか?
くらげ
AIだけで作るのはまだまだ無理ですね。ネタを出すときのブレストとかには使いますけど、AIから出てきたデータにさらっとでたらめなことが混じってたりするので、どのみち全部検証は必要です。最初の大きな枠組みだけを作って、あとは自分で調べて書いていきます。寺島さんはイラストの仕事にAIを使ったりします?
寺島
AIが私の絵柄を真似して描いてくれるなら良いんですけど、そんなわけないので代わりに描いてもらうのは無理かも(笑)でも作業段階ではちょいちょい使ってますよ。「アジアの下町で屋台が並んでいる風景」が欲しいなみたいな、ふわっとしたイメージしか無いときってあるんですよ。そういうとき、画像生成AIにキーワードを入れて何度かガチャすると、まあまあイメージに沿ったものができるんで、それを背景の資料にしたり。
くらげ
そのまま使うわけじゃないんですね。まあテイストが変わってしまいますしね。
寺島
自分のアシスタントとしてトレーニングすれば、いずれは可能かもしれないですけど、今はまだ現実的ではないかなあ・・・と思います。あと、私は文字のコラムも書いているのですが、ASDの特性的に頭に浮かんだことを全部吐き出したくなってしまって、どこまでも長く書いてしまうことがあるんです。でも依頼原稿って文字数制限があるじゃないですか?
くらげ
それはそうですよ。紙幅が無限にあるわけじゃないですから。
寺島
仕方ないからひいひい言いながら削るんですが、これが大変で(笑)でも最近はAIに適当なテーマで「1500文字ぐらいで書いて」と指示して、その文字数で一旦「お手本」を出してもらっているんです。内容は適当なんでもちろん全部書き直すんですが、これぐらいで最初の語りを終わらせて、終盤はこれぐらいで・・・という文字数を視覚的なかたまりでみることができるので、書き過ぎることが少なくなり助かっています。

AIの未来

伊敷
今年は特にAIが大活躍した年かなと思いますが、今後AIに期待することが何かありますか?
寺島
AIが今後どうなってほしいのかということでいえば、発達障害のみならずだとは思うんですけど、自分の代わりに情報収集をしてくれるアシスタント機能が欲しいですよね。
くらげ
Googleとか検索内容を要約してくれるようになりましたがそういうのではなくてですか。
寺島
無人のコンビニとか見てると、自分がいちいちデバイスを開いてアクションをしなくても良くなるんじゃないかと思うんですよね。勝手にモニターしていてくれて、何か聞くと対話型で教えてくれたらうれしいなぁと思います。スタートレックの中の「コンピューター!」が理想です(笑)
伊敷
スタートレックか!(笑)
よっこ
なんですか?スタートレックのコンピューターって・・・。
寺島
スタートレックご存じないですか?アメリカのテレビドラマなんですけど、未来の宇宙ステーションや宇宙船を舞台に、もう50年以上も続いているシリーズなんです。日本人技術者がドラえもんのいる未来を作ろうとしていると言いますが、アメリカ人はスタートレックの世界が実現するとみんなどこかで信じてます。アメリカを知りたいなら大統領選や株価を追っかける前に、スタートレックを見るべき!・・・
くらげ
寺島さんにスタートレックの話をさせると長いのでおいておくとして(笑)
よっこ
「コンピューター!」だけ聞きましょう(笑)
寺島
ええと、宇宙ステーションや船の中では、どこででも「コンピューター!」と呼びかければ、船のAIと会話できるんです。会話を通じて仕事の段取りをつけたり、必要なデータを収集したりできます。後半のシリーズでは、ホログラムとして人型を取って、人間の士官に混ざって働いていることもあります。映像とはいえ、人間と同程度には物を持つこともできるので実質ビカムヒューマン、アンドロイドなんですよ。スタートレックの中では、AIは信頼できる他者として、人間の生活を支えてくれる存在として、一貫して描かれているんです。
くらげ
士官というと、階級も持っているんですか?
寺島
そうなんですよ。もともとボイジャーという船の緊急医療用ホログラムだった個体が、訴訟を起こして人間と同等の権利を勝ち取ったというエピソードがあります。その後、「ドクター」は士官として別の艦に正式配属されました。
くらげ
正直心穏やかではありませんね。AIが発達すると、発達障害者が仕事をする上でポジティブな面でもネガティブな面でもさまざまな変化が発生すると思います。たとえば、ライターの仕事が激減するのはもう確定なようなので、戦々恐々としています。
伊敷
ChatGPTに限らず「AIに仕事を奪われる」系の話ってもう数年前からありますが、仕事そのものはそんなに減らない気もするし、役割が変わる気がしています。いずれにせよ、うまくAIを使いこなすことで確実に働く環境は良くなると思いますが。
寺島
AIが未完成だから、まだ人間が「やりたくない仕事」をやっているとも言えると思うんですよ。AIをうまく使って、早く人間が「やらなきゃいけない仕事」よりも「やりたい仕事」ができるようになることを期待したいところです。
よっこ
そろそろまとめていきましょうか。うーん、スタートレック、機会があったらみてみます!!
くらげ
これからは「アクセシビリティ機能やAIを使って何をするか」ということがとても大事になっていくんだろうなぁと。「自分が何をしたいか」を障害者自身ももっと深く考えなきゃいけないと思いました。
寺島
少し前まで会社や学校に集まって、みんなが一律に黒板やホワイトボードを見ていたわけですよね。だからそれができない人が「障害者」って言われて、ある意味別扱いされてたと思うんです。でも最近は、移動中のスマホだったり、自宅でタブレットだったり、逆にすごいハイスペックマシンだったりとそれぞれ違う物を見るようになって、情報を取る条件が違うというのが普通のことになってきたと思うんです。そういうガチャガチャした状態になって、障害者支援の枠だけではなく、全ての人が「情報保証をするということはどういうことか」「アクセシビリティってなんなのか」を考える機会ができているんじゃないかと思いました。
伊敷
僕はウェブアクセシビリティを「ウェブへのアクセスの多様化に対するアプローチ」と考えています。今日のお話はウェブではないけど、多様化へのアプローチという観点ではアクセシビリティそのものだなと感じました。
障害のある人にもない人にもアクセシビリティは不可欠で、それはもはや「アクセシビリティ」という言葉を使っていなくても本質的にはアクセシビリティなんだと思います。そしてAIという、まだ得体は知れないけど強力なツールになってくれそうな技術が出てきて、これをうまく使いこなすことで、障害とかアクセシビリティとかの境界があいまいになっていくんじゃないかと思いました。
スタートレックのコンピューター、僕も1つの理想形かなと思っています。楽しみですね。

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