【ウェブアクセシビリティ座談会 No.10】大胡田弁護士に改正障害者差別解消法について聞いてみた

- よっこ
- サニーバンクのよっこです。本日はよろしくお願いします。
- 伊敷
- 視覚障害当事者で全盲の伊敷です。今日は改正障害者差別解消法について知ろう!ということで、ゲストを迎えての座談会となります。よろしくお願いします。
- 板垣
- 身体障害の板垣です。神戸のポートアイランドで「アイ・コラボレーション神戸」というNPOを運営してます。主にアクセシビリティ事業の仕事をしてます。よろしくお願いします。
- くらげ
- くらげです。聴覚障害とADHDの当事者です。障害者差別解消法が改正されましたが、具体的にどうなるのかはあんまりよくわかってない面もあるので勉強させていただきたいと思います
- 寺島
- 漫画家でイラストレーターの寺島ヒロです。子どもが2人いて2人とも自閉症、そして私自身にも強いASD傾向と睡眠障害があります。座談会には、アドバイザーとして参加するほか、イラストやアイコンも担当しています。ここまではいつものメンバーですね。
- よっこ
- はい、本日はスペシャルゲストとして大胡田弁護士をお迎えしております。大胡田弁護士は伊敷さんの後輩でもあるということで、ご多忙中にも関わらず座談会に参加していただけることになりました。
- 伊敷
- こういう場で大胡田弁護士にお話を伺うのは、ぼくも初めてなので大変楽しみにしてます。では、ご本人から自己紹介を…
- 大胡田
- 大胡田です。私は全盲の障害がありまして、全盲の視覚障害者では日本で三人目の弁護士となりました。普段は目黒駅近くの法律事務所で仕事しておりまして、離婚・相続や交通事故などの案件を受けています。様々な障害のある方から相談を受けることも多いですね。家族は同じく全盲の妻と、子どもが2人おりまして、目の見えないパパとママが目の見える子どもたち2人を育てているという家庭でございます。
- 伊敷
- ありがとうございます。
障害者差別解消法の2つの柱
- 伊敷
- さて、早速ですが、2024年4月1日に改正障害者差別解消法が施行されてどうなったかという話から伺っていきたいと思います。これまで努力義務だった民間事業者の合理的配慮の提供が義務化されるというのが一番大きな変更点でしたね。
- よっこ
- 改正法の施行前から「ウェブアクセシビリティへの対応も義務化される」という情報が流れてサニーバンクにいろんなところから問い合わせがありました。「義務化」のインパクトは大きかったみたいですね。
- 伊敷
- ですけど、聞いていると「ウェブアクセシビリティへの対応も義務化される」ということについて、解釈が正しいとは言えないところがあって…。正しいところを理解してもらいつつ、同時にウェブアクセシビリティを実施したほうが良いのは間違いないので、そのあたりを座談会で話したいと思ったんですね。まずは法律の概要について大胡田弁護士からお話ししていただきたいなと。
- 大胡田
- はい、ありがとうございます。まずは障害者差別解消法という法律ですが、これは2016年4月に施行されて8年を迎えた法律ですね。この法律の目的は「障害を理由とする差別の解消を推進することによって、全ての国民が障害の有無によって分け隔てられることなく相互に人格と個性を尊重し合う共生社会を実現すること」となっていまして、そんな社会が実現したら私も素晴らしいなというふうに考えてます。それで、この共生社会を実現するためにどういう法律やルールを作ったのかというと、障害者差別解消法の中で大きく分けて2つのルールを作ったんですね。
- 大胡田
- 一つ目は「障害を理由とする不当な差別的取り扱いの禁止」で、もう一つが「障害者に対する合理的な配慮の提供」です。
- 寺島
- まずはそこからですね。それぞれのルールについてもぜひ教えてください。
不当な差別的取り扱いの禁止
- 大胡田
- まずは「不当な差別的取り扱いの禁止」ですが、この対象となっているのは行政機関と民間事業者です。民間事業者とは、民間企業やNPO、あるいは町内会など、ある一定の事業を継続的に行ってる団体の全てが含まれる概念です。この民間事業者や行政機関は、障害を理由として障害のある人を不当に差別して取り扱ってはいけませんということが定められています。
- くらげ
- きちんと法律では定められているんですね。しかし現実には、不当な差別と言えるものが多く存在すると思うのですが。
- 大胡田
- そうですよね、まだこの法律の理念が社会に浸透していないといえるのかもしれません。「不当な差別的取り扱い」という言葉は抽象的なため、それだけでは何が「不当な差別」と言えるのかっていうのはわかりにくいということもあります。政府や内閣府ではガイドラインを作っていて、このガイドラインの中では「不当な差別的取り扱い」というのは「障害を理由に正当な理由なく、財・サービスや各種機会の提供を拒否すること、時間帯や場所などを制限すること、障害者でない者には付さない条件を障害者にのみ付することなどの行為によって、障害者の権利利益を侵害すること」ことだとされています。
- よっこ
- 具体的にはどのようなことですか?
- 大胡田
- 例えば、商品を売りませんとか、お店に入れませんとか、健常者には与えるチャンスを障害者には与えませんとか、そういうのは駄目というわけです。また、障害者にだけ「必ずこの席で食事してください」とか、障害者にだけ「必ず何時から何時までにサービスを受けてください」などの特別な制限をすることも駄目です。障害者にのみ条件を付することとは、例えば障害者に対して「必ず自分で介助者を見つけて連れてきてください」といった特別な条件をつけることでこれも駄目です。
- 寺島
- サービスを受けることに制限をつけるのもダメなんですね!私は睡眠障害もあるので、「向こうが指定した時間に起きて行けるか不安だから受けられない」と思っていた行政サービスも多いので、これを徹底していただけるとすごく有難いです。
- 大胡田
- ただし、ありとあらゆる場合に障害者と健常者を区別しちゃいけないというわけではなくて、正当な理由がある場合には障害者と健常者を区別することも許されることになっています。ただ、この「正当な理由」がどんどん拡大解釈されてしまうとあらゆる場合に適応されてしまう恐れがあるので、政府のガイドラインの中では「正当な理由がある場合」というのは誰が見ても正しい目的で目的達成のために仕方がないなっていう場合に限定されています。これが1本目の柱である「不当な差別的取り扱いの禁止」のルールです。
- 寺島
- どこまで拡大解釈して良いかという問題もあるんですね。お互いわがまま合戦にならないようにしないといけないですもんね。
- 伊敷
- よく分かりました。では、もう一本の方は?
合理的配慮の提供
- 大胡田
- もう一方の柱である「合理的配慮の提供」ですが、これも対象となっているのは行政機関と民間事業者で、障害者が求めた場合には、過重な負担とならない限り、必要かつ合理的な配慮を提供しなければいけないということが定められています。
- くらげ
- 行政機関と、民間事業者もですか。
- 大胡田
- 少し前後しますが、行政機関は合理的配慮の提供が義務化されていましたが、民間企業では「努力義務」とされていました。今回の改正後、4月からは民間事業者も合理的配慮の提供が法的な義務に格上げされました。障害者が求めた場合には、過重な負担とならない限り、民間の事業者も合理的な配慮を提供することが法律的な「義務」ということになっています。
- よっこ
- 民間企業では「合理的配慮の提供が法的な義務になる」というところで、そもそも合理的配慮とは?とか、過重な負担がどの程度なのかとか、申し出を受け入れられない場合にどうなるのかなどの不安があるように思います。
- 大胡田
- この合理的配慮を一義的に定義することが難しいのですが、合理的配慮について私が説明するときには「障害者が障害のない人と平等に社会に参加するために必要となる手助け、設備の改良やルールの変更など」というふうにお伝えしています。
- よっこ
- 「社会に参加するために必要な」というところがポイントかもしれませんね。何か、例えばスロープなどをつけたから達成みたいな目標ではなく、目的に一緒に向かっていこうというような…
- 大胡田
- そうですね、合理的配慮は「こういう場合に必ずこういう配慮しなければいけない」というのが決まってるというわけではなく、基本的には障害者が求めて健常者がそれに対して何ができるのか、障害者が求めた配慮ができないのであれば何か別の方法がないかということを対話を通じて見つけていくものだというふうに考えられます。これを「建設的対話」というのですが、障害者と健常者の間の建設的対話を通じて、必要な配慮を見いだしていくことが合理的配慮の特徴なんですね。
- 板垣
- バリアフリーとは似ていて異なる部分があるように思うんですが、法律の観点から見るとやはり明確に違うんでしょうか?
- 大胡田
- 例えばバリアフリー法という法律は一定の基準以上の建物や一定規模以上の駅は必ずバリアフリーにしなくてはならないというルールになっています。2022年にできた障害者情報アクセシビリティ・コミュニケーション施策推進法は情報分野におけるバリアフリーのルールです。あとはウェブアクセシビリティのJIS規格である JIS X 8341-3 もひとつのバリアフリーの基準です。こういった基準を作って、社会全体の底上げを図っていき、できる限りのバリアを事前になくしていくんですね。しかしながら、どうしても残ってしまったバリアを事後的に、障害者からの個別の申し出に事業者が対応する形でなくしていこうというのが合理的な配慮、というような位置付けになっています。
- 大胡田
- このように、一般的・抽象的な取り組みであるバリアフリーと個別的・具体的な取り組みである合理的な配慮というのは車の両輪のようなもので、両方がちゃんと回っていかないと、社会は変わらないというわけです。
- 寺島
- なるほど!私もそのへんがごちゃごちゃしてたので、説明を聞いてスッキリしました!向こうとこっちから砂山にトンネルを掘っていくようなものなんですね。
合理的配慮の提供義務化で何が変わる?
- 大胡田
- そうですね。冒頭の話に戻りますが、今回の法改正では、これまで民間事業者の合理的な配慮は努力義務だったけれど法的義務になったというところが注目されているようですね。法律的な義務になると何が変わるかといえば、一番大きいのは事業者が「適切な配慮をしない」ということが裁判の対象になってくるということが言えるでしょう。これまでは適切な配慮を行わなかったとしても努力義務なので、法律違反にはならなかったわけですが、今後は法律違反になりますので、場合によっては慰謝料請求などの対象となってくる可能性があります。
- 寺島
- 裁判になるというのはかなり大きいですよね。
- 伊敷
- でも、アメリカなどを見ると、この手の公益訴訟の例はよくありますよね。裁判で正していくという考え方が根付いている感じがします。
- 大胡田
- 実務上でもう一つ大きいのは、行政が強く指導ができるようになると言われています。これまでは努力義務だったので合理的な配慮をやらなかったとしても、行政としては「ちゃんとやってくださいね」ぐらいの指導しかできませんでした。ところが、法律が義務になってきましたので「法律上はこうなってますのできちっとやってください、あなたも義務があるんですよ」と厳しく指導ができるようになると行政の担当者が言っていました。
- くらげ
- ありがとうございます。今のお話の中に「障害者自身による申し出があった場合」という言葉が何度も出てきていると思いますが、合理的な配慮の提供には「障害者が申し出る」ということにかなり大きなウエイトが乗ってるような気がしました。
- 寺島
- 訴訟を起こすとか、ちょっと自分では難しいかなという感覚もありますよね。
- 大胡田
- おっしゃる通りで、法律上は「障害者からの申し出に対応して合理的な配慮を行うことにより社会的な障壁を除去する」というのは前提になっています。しかし現実的には障害者から申し出が難しい場合もありますよね。裁判というほどでなくても、例えば、視覚障害者がお店に買い物に行ってサポートしてもらいたいなと思ったと、でもどこに店員さんがいるかわからず声をかけられないということもあります。この場合は店員の側から「何かお手伝いすることありますか?」と声をかけていただきたいと思うかもしれません。ただ、法律的なルールの上では障害者からの社会的な障壁の除去の申し出を行うことが最初のスタートということになっています。
- くらげ
- これは聴覚障害者の件なんですが、例えばアニメのDVDが出たときにアニメに字幕がないことも多いんです。それで制作会社に「字幕をつけてほしい」と申し出をしたいのですが、字幕をつけるには会社のお金がかかるわけじゃないですか。それは過度な負担になるんでしょうか?
- 大胡田
- これは考え方としては、DVDに字幕をつけて欲しいというのは適切な合理的な配慮の申し出なんですね。これに対して会社側は予算的な問題だったり、実現可能性だったり、字幕をつけることによって何か損なわれるサービスはないかなどを含めて、過重な負担に当たるかどうかを考えるわけです。それで過度な負担にならないのであれば字幕を入れる必要がありますし、過度な負担となる場合には何か別の方法がないかなっていうことを考えることを内閣府のガイドラインは求めています。
- よっこ
- 過度な負担かどうかは会社側の判断になるんですね。その上で実現可能な道を探っていこうと。
- くらげ
- しかし、法律としてはそうなっていますが、例えばそのDVDに字幕をつけてほしいのが1人だけであったらどうでしょう?1人からの申し出であっても字幕をつける必要は生じるんでしょうか?
- 大胡田
- その通りだと思います。結果として、一個人からの合理的な配慮の申し入れが聴覚障害者全体に対して恩恵を与えることはあると思うんです。それは別に聴覚障害に限った問題じゃなくて、あらゆる障害に言えると思うのですが、個人の合理的な配慮提供の申し出によって社会全体の環境の整備が進むということはむしろ発生するべきだろうなと思います。
ひとりで申し出したり交渉したりするのは不安が・・・
- くらげ
- ただ、申し出をする場合には、会社や団体等と障害者が一対一の関係になって交渉する必要が生じると思います。その場合には障害者個人の交渉力も絡んできてしまうので、結局誰が交渉しなきゃいけないのかがちょっと見えてこないっていうのがあるのかなと。
- 大胡田
- そうですよね。法律上では権利と義務の関係だとしても、1人の障害者が交渉することは確かに難しいですよね。そういった場合には聴覚障害者の団体を通じて交渉を行うことも一つの方法にはなるかもしれません。ただ、団体を使った方が交渉力が強いことは間違いないと思いますが、個人で交渉しちゃいけないということもなくて、個人でやれる人は個人でやったらいいし、それができない人は団体のサポートを受けてやるといいということかなと思うんです。
- くらげ
- 聴覚障害者の団体か、やってくれるかな…?(笑)
- 大胡田
- あとは、東京都であれば福祉保健局の中に障害者差別解消条例に基づいた相談の窓口があるので、相談窓口の担当者を通じて交渉するということもあるかもしれませんね。以前、視覚障害者が緊急時に避難誘導ができませんとかそういう理由でネットカフェの利用を断られたという相談があって、これは明らかに条例に反するなと思ったのでこの窓口をおすすめして連絡してもらったら、東京都の担当者がネットカフェに「こういうことはいけませんよ」と言ってくれて、次からネットカフェを使えるようになったということがありました。
- 寺島
- 個人でも相談窓口に駆け込むという方法なら、あまり負担感なくできるかもしれませんね。
- 大胡田
- 他の自治体でも条例に基づいた相談できる窓口など設置している例が増えていますが、そういう条例がないところや、全国的な問題である場合には、内閣府がメールや電話で相談できる「つなぐ窓口」という窓口を設置しているので、その窓口を使うってのも一つの方法かもしれません。
- よっこ
- 私は以前、自治体の「消費生活センター」で働いていたんですが、なんだかちょっと似ているなと思いました。消費者と事業者には持っている情報や交渉力に差があるから、消費生活センターが間に入って助言したりあっせんを行ったりしています。同じように事業者にお願いしたいけれどどう伝えたらいいのかわからないとか、そもそもお願いしていいのか悩むとき、客観的に判断してくれたり、事業者と繋いでくれたりする窓口があるといいですね。
- 寺島
- 私なんかは発達障害があるので、自分が感じていることが正当なクレームなのか自信を持てないし、どう説明したら良いのかもわからないんですよ。そもそも私が何かを勘違いしているのかな?とか、「どっかに説明が書いてあるから読め」って言われて追い払われるんじゃないかな?という恐れがあって、「おかしいんじゃないかな?」と思っても我慢してしまうみたいなところがあります。相談窓口もハードル高いなって感じてしまいます。
- よっこ
- 企業にもお客様からのお問い合わせや要望を受け付ける「カスタマーセンター」のようなものがあったりしますが、直接企業のカスタマーセンターに合理的配慮の提供を申し出る場合、カスタマーセンターの担当者がみんな「障害」に詳しいというわけではないですよね。あと、申し出する当事者の方も、困り事やお願い事をしっかり言語化して伝えられる方ばかりではないと思うんです。受ける側と伝える側のコミュニケーションがうまくいかなくて、申し出を正しく理解してもらえなかったり、お互いにとってより良い対応ができなかったりするんじゃないかという心配もあります。
- 寺島
- そうなんですよ!「はいはい、そういう方もいらっしゃいますよね」みたいな扱いをされると、こちらも心がないわけではないので折れちゃうんですよ。要求を通したいときにどのように伝えたらいいかなどを教えてくれる消費生活センターみたいなところを同時に整備してくれると大変ありがたいのですが…
- 伊敷
- それがあるとありがたいですね。何か武器だけ渡されて戦ってねって言われてもちょっと困ります。何かそういうことを優しく教えてくれるところないんですかね。
- 大胡田
- それは内閣府や各地方自治体の相談窓口などが担うべきだなと思いますね。
- よっこ
- 消費生活センターみたいに各自治体に窓口ができたりして、身近で、相談しやすい窓口になると嬉しいですね。
- くらげ
- 障害者差別解消法ができたことはできたけど、社会全体で知られてないし、障害者自身がその法律の使い方がわからないという課題が挙げられてきたと思うんですけど、それは非常にもったいない状況かなと。あと、最初の方で伊敷さんがおっしゃられてたんですけど、そもそもこの法律に対する誤解も大きいですよね。
- 伊敷
- 障害者差別解消法の改正の施行をビジネスチャンスと捉えた企業さんが自社サービスに誘導するための売り文句として使っていたりとか、障害者福祉に繋がっているのか疑問符が付くようなものも散見されるというのが残念ですね。
- くらげ
- この前、Twitter(X)を見ていたら、この法律を知ったユーザーが「障害者が何か言ってきたらどんなことも受けなければいけないのはおかしい」みたいなツイートがバズってたんですね。これは誤解なんですけど、障害者に対して攻撃的なリプライとかが多くて割とげんなりしました。
- 伊敷
- 企業とか店舗とかでお客さんに対応する人たちからすると、何を要求されるのかわからないっていう不安はやっぱり大きいんだと思うんですよね。
- 大胡田
- この法改正が障害者の間にあまり浸透していないということが、私としても一番の懸念点ですね。民間の側にも周知させなきゃいけないし、障害者自身にもこういうことなんですと周知しなければいけないですよね。
カギになるのは「建設的対話」
- くらげ
- 「建設的対話」は大きなキーワードなるとは思うのですがそもそも「建設的対話とは何か」というところからのスタートになりますよね。「建設的対話」の定義とはなんなんでしょうか?
- 大胡田
- 内閣府のガイドラインなどを見ても定義は記載されていないのですが、障害者と健常者が対等な立場で行う、お互いの理解を目指した対話というイメージだと思います。
- 寺島
- 喧嘩腰ではなくて「こういうことができるかな?」とお互いに言い合える環境を作るということですね。障害当事者から「これをやってほしいです」と言った時に、提供する側がそれをそのままやれなくても「どうすれば実現できるのか?」を、お互いに考えていくためのベースのようなものというイメージ。
- 大胡田
- そういうイメージだと思いますね。合理的配慮にはプロセスをどう組むかというのが重要なんですよね。
- くらげ
- 公的な場所では、これまではバリアフリーを始めとして障害者自身が困らないように「前もって」準備しとくというのが当たり前になってきましたよね。これからはそれだけではなくて「何か不備があったら障害者自身が自分で交渉して変えていく」という意識を持つ必要があるのですね。
- よっこ
- 私は昔の仕事の繋がりもあって、消費生活センターや企業のカスタマーセンターなどで働く方々と話すことがあるんですが、今回の法改正を受けて特別な話があったとか、そのための研修を受けたとかという人はいなくて、法改正があってもなくても、お客様からの要望をできる範囲で叶えるというのはそもそもお客様対応としてこれまでもやってきたことだし、これからも同じようにやっていくんじゃないかなという話になりました。でも、障害のある方への対応に対する法的根拠があるのとないのとではまた違うかなと思うところもあって…
- 伊敷
- 今までやってきたお客様相談センターへ問い合わせるとか要望を送るというのは、あくまでも一顧客からの要望であって、それを受け取る会社としてはやってもやらなくてもいいというものだったけど、今回の法改正は「やるかやらないか」ではなくて「やらなければいけない」なので、今までと同じというわけではないですから。
- 大胡田
- そうですね。無理だったら企業側も「こういう事情で対応できません」ということを説明して納得してもらうというところまでやる必要はあるでしょうね。
- 伊敷
- 基本方針の事例に載っていたんですが、視覚障害のある人がお店に行って買い物をしたいけど商品がどこにあるかわからないから店員さんにサポートしてほしいと。でも、お店が混んでいる時間帯なので店員さんも手が空いていなくて一緒に回ることができないと。そういうときは店の入り口で店員さんに「これこれが欲しいです」といって店員が代わりに取りに行って店の前で会計したという話なんです。こういった代案をお店側から出して、それで当事者が納得したら建設的な対話が成立したということになるんでしょうね。
- 大胡田
- おっしゃる通りですね。
- 寺島
- そういう「対話」なら、こちらも構えずに出来るかもしれません。
- くらげ
- また、どうしても話が通じないとなれば、裁判という手も使えるわけですからね。
- 伊敷
- しかし大胡田弁護士、この障害者差別解消法を根拠にして訴訟を起こすということは実際に出るもんなんでしょうか?
- 大胡田
- 理屈の上ではできると思います。でも、例えば全ての映画に字幕を付けることを直接請求するような訴訟は日本の民事訴訟法のもとでは難しいかもしれません。「字幕がついていなくてとても辛い思いしたので慰謝料を払え」というように金銭的な賠償を求めることになると思います。
法律を知り、人を知り、対話しよう
- 板垣
- 何と言いますか、僕は裁判とか法律とかは例えば「HERO」だったり「離婚弁護士」であったり、ドラマの世界で法律を使って勝ち負けを決めるみたいなことしか知らなくて。でも、そういうドラマって見ている人が多いですよね。それでちょっと、「障害者差別解消法」を有名なドラマとかで使ってもらって有名にできないかと考えました。
- よっこ
- サニーバンクのワーカーさんと話していても、障害に関わることをテーマにしたドラマには関心を持って見ている方が多いと思います。もちろんドラマが面白いことは前提ですが。
- 板垣
- さっきよっこさんも言ってましたけど、僕の「アイ・コラボレーション神戸」でも、ここ半年ぐらい、「法律が改定されるから、ウェブアクセシビリティをやった方がいいんですかね、訴えられるんですかね?」みたいな相談があちこちから来るんですよね。なんかそれが嫌で。法律とか関係なく、ウェブアクセシビリティは取り組んだほうがいいですよね。
- 伊敷
- おっしゃる通りですね。法律だからとか訴えられるリスクがあるからとかではなく、ポジティブにとらえて取り組みたいです。
- 板垣
- でも、有名なドラマでこの法律が使われたら、この法律に基づいて「建設的対話」が自然に生まれてお互いが気持ちよく交流できるようになるんじゃないかと思うんですよね。それで言うと、「障害者差別解消法」という名前は良くないと思うんですよ。障害者だけが対象で、自分は関係ないとか家族に障害者はいないしと思った人が多分多いと思うんです。こういうところでモヤモヤしますね。
- 寺島
- 板垣さんがおっしゃることはよく分ります。法律だから知ろう、罰則があるからやろうでは限界がある。でもお笑い芸人の人がネタにしてくれたり、漫画やドラマになることで「そういうこと」が、普通にそのへんに「ある」ことになれば、関係ないと思っている人の意識を変えるキッカケになると思います。そのためにはある種の戦略みたいなことも必要になるんじゃないですか。
- くらげ
- やっぱり、「まずは知ってもらいましょう」というところは大事ですよね。
- 大胡田
- 例えば、合理的な配慮によって「この店はめちゃくちゃサービスがいいな」ということが健常者にも広く伝わって、健常者もあの店に行こうよという流れができたらすごくいいなと思います。字幕の話だって、聴覚障害の人だけではなく動画に字幕がついたことで利用できる人が増えて、映画等の視聴回数が増えると言う効果も絶対にあるはずなんですよね。そういったポジティブな側面ももっと知ってもらいたいと思います。
- 寺島
- Google mapにクチコミを投稿するだけでも巡り巡ってアクセシビリティに繋がるんですね。それなら私も始められそうです。
- よっこ
- 障害のある人からの意見を聞くというのはサニーバンクでも業務としてやっていることですが、私たちも、それらをクレームではなく、有益な情報としてサービスの向上に使えるということを、もっとアピールした方が良いかもしれませんね。大胡田さん、本日はありがとうございました。
- 伊敷
- 大胡田さんのお話を聞いて、まずはこの法律について正しく知ること、障害のある僕たちは自分が困っていることに気づいて、それを伝える言葉を持つこと、そして対話をすることから始めたいなと思いました。また行政機関や民間事業者の方々にも、皆さんが提供している製品やサービスを多様な人たちが利用していることに目を向けて、それらをより多くの人が使えるようにしたり、さらに使いやすくしたりするために、対話に参加してほしいと思います。
- 大胡田
- ありがとうございました。
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